第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「へぇ…寵愛ねぇ。寵愛」
「お館様の寵愛か! ならば益々負けられないな!」
「つーかなんでお館様の寵愛が鬼に向けられんだァ。図々しい」
「愛は人間にこそあり」
「え…いやちょっと言葉のあやというか…ただの勢いというか…そんな敵意剥き出してこないで怖い…てか本当お館様好きだよね皆…」
「十中八九、君の所為だね。俺は知らない」
「とっ時透くん!? 私と貴方は最早一心同体だから!」
「何それ気持ち悪い」
「なんっか見ないうちに仲良くなったもんだな、あの二人」
「うむ」
冷たくあしらう無一郎に、めげずに喰らい付く蛍。
そんな二人を物珍しそうに見る天元の隣で、杏寿郎もまた頷いた。
「兎にも角にも、さっさと戦ろうぜ日没前に」
「ち、ちょっと待った!」
「あ? 今度はなんだよ。煩ぇ小鬼だな」
「天元から見たらほぼ皆小さいから! じゃなくて、禰豆子は戦えないのっ」
「あん? 禰豆子って…あのちっせぇ鬼の子供か」
義勇が背負っている木箱を指し示す蛍に、天元達の目も興味を持つ。
しかし視線を感じて尚、木箱の中は一切身動きがない。
緊張しているのか、怖がっているのか。
「禰豆子は彩千代のように陽の下には出られない。よって不参加だ」
「いくら柱でも、死ぬともわからない太陽に怖がるいたいけな少女を、無理矢理参加させたりしないよね?」
「むぅ…難しい問題だな…」
「餓鬼だろうが鬼は鬼だろォ。出せよそこから」
「無理ですよ。あの鬼は、その鬼の言うことしか聞かない。梃子(てこ)を使っても動きませんよ、きっと」
淡々と告げる無一郎の言葉には、常に裏表がない。
だからこそ信憑性もある。
どうしたものかと、杏寿郎達も考え込んだ。
「つーかよ、それならなんでお前は平気なんだ? ピンピンしてんじゃねぇか」
「…無理矢理参加させられて、嫌でも慣れただけです」
ふと疑問を呈す天元に、素っ気なく応える蛍の視線は向かない。
唯一の救いは、鬼面のお陰でわざわざ表情を作らなくてもいいことだった。