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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第12章 鬼と豆まき《壱》✔



「…っ」


 鬼面の下で息を呑む。
 ぎりぎりと手足を締め上げる力は、本来の鬼の力を持ってすれば振り払えないものではなかった。
 しかし恐怖に引き攣る蛍の体は、思い通りに動いてくれない。

 鬼面を覆う青白い指の隙間から、かろうじて見えたものは黒い木々。
 ぎょろりと突如それが黒い眼へと変わった。
 鬼面越しに至近距離で目元の穴を覗いてくる、限界まで見開いた目玉。
 全貌が見えなくとも、あの半月のような形をした不可解な女の目だと直感した。


「ひ…ッ」


 悪寒が走る。
 ぴたりと鬼面に張り付いて覗いてくる血走った目に、体は硬直して動かない。
 鬼面を覆った手の圧力で、みしみしと軋む。
 恐怖に慄く蛍の心を表すかのように、ぴしりと鬼面に亀裂が走った。

 ぼぅ、と熱い灯(ともしび)が蛍の足元に落ちたのはその時だ。

 黒い蛍の影に触れたかと思えば、火柱のように灯が吹き上がる。
 熱風のような熱さを感じる蛍の体から、一気に縛りが解けていく。





「そこまでにしてもらおうか」





 ぎょろぎょろと剥き出して覗いていた目は、消えていた。
 開けた視界に、金色の稲穂のような髪が揺れる。


(──あ)


 聞き覚えのある声だった。
 それでも久しく感じたのは、本日初めて聞いた声だったからか。


「きょ、じゅ…?」


 何故彼が此処にいるのか。
 疑問を呈す前に、ただただ唖然と蛍はその名を呼んだ。

 炎柱、煉獄杏寿郎の名を。


「彩千代──」


 駆け付けた義勇の目が止まる。
 其処には蛍を庇うように、何かと対峙するかのように、立っている炎柱がいた。
 見開いた両の目を蛍にも義勇にも向けることなく、杏寿郎はただ一点を見据えている。


「俺はとても、不快だ」


 口角は上がっていたが、額にはみしりと血管が浮く。
 低くとも響くような声に、その場は静まり返った。

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