第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「なんで私が!? 祠を開けたのは私じゃないのに…ッ」
寧ろ開けることを止めようとさえしていたのに。
そう訴える蛍の口が、はたと止まる。
しのぶの怪談話もそうだった。
最終的に祟られたのは、祠に触れていなかった岸田という隊士だった。
祠の扉を開けたのは、佐本という隊士であったはずなのに。
「お前だ」と、異型の赤子に見定められて。
「…っ」
ひやりと背中に冷たいものが走る。
もしあの怪談と同じ道を辿るとするならば、自分は。
蛍の足場から伸びる影が、茜色に照らされ尚伸び続けている。
そこから波紋を広げさせるように、波打つ黒い影の縁。
蛍の恐怖する感情に呼応しているかのような影鬼を、義勇は目の端で捉えていた。
「彩千代」
硬直したままの体に、そっと寄り添うようにして背中に手を添える。
びくりと震える蛍の手が、尚も義勇の羽織を強く握り締めた。
「落ち着け。祠を開けたのは俺だ。お前は関係ない」
「で、でも」
「お前がそんなに怖がると、禰豆子も怖がる」
炭治郎に任された大事な妹を、責任感の強い義勇が守り通したい気持ちはわかる。
しかし恐怖に慄く姿が迷惑だと言われているような気がして、蛍は喉まで出かかった言葉を呑み込んだ。
足元の影が、ざわつく。
鬼殺隊の扱う呼吸法とは違い、血鬼術には道理も真理もない。
その感情のままに蠢く足元の波を、義勇は見抜いていたかのように驚きもなく続けた。
「何より俺も安心できない」
ぽんぽん、と。あやすように背を撫でる手は優しい。
「彩千代を禰豆子の箱に入れて運ぶことはできないからな」
「ぅ…それは、わかってるよ…」
「だからこれでいいか」
「?」
空いていた蛍の手を、義勇が繋ぐように握る。
「握っていろ。俺には何も見えないが、隣にいれば少しは怖くなくなるだろう」
「……」
「だから羽織から手を放せ」
「…嘘だって、思わないの?」
見えないはずのものを何故信じてくれるのか。
繋いだ手をまじまじと見つめて問う蛍に、そんなことかと義勇は息をついた。
「彩千代がそんな嘘をつかないことくらい、知っている」