第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「ひ、人っ」
「?」
「其処に人が…ッ」
「人?」
戸惑いながら蛍が指差す先。
目線を移した義勇の目に、黒い枝木が映る。
者寂しげに木々が立つばかりで人影らしきものはない。
「何もいないぞ」
「え…うそ」
「木の枝を人と見間違えたんだろう。仮面で狭い視野なら仕方ない」
「……」
「どうしたんですか?」
「いや」
後を追ってきた無一郎に手短に応えて、蛍の様子を伺う。
黙り込んだ鬼面は、指差した方角をじっと疑わしく見ていた。
怖がっているものを、蛍がわざわざ話題にするはずはない。
恐怖心が見せた幻覚だろうと、義勇は納得すると今一度辺りを伺った。
やはり人影などはない。
「彩千代。俺達から離れず歩け。いいな」
「う、うん」
促す義勇に、ぎこちなく頷きながらも踏み出す。
しかしその足は動かない。
地面に縫い付けられたかのようにびくともしないのだ。
何故かと足元を伺った蛍の目に、黒い自身の靴下と草履が映る。
そこには地面から這い出したかのような、白く細い指が絡み付いていた。
紛うことなき人の手だ。
「ひゃあぁあッ!?!!」
「!?」
素っ頓狂な悲鳴を上げた蛍の体が飛び上がる。
本人は飛び上がる程驚愕していたのだが、実際の体はもたついているだけ。
「どうし」
「ぎっ人! ててて手…!」
「落ち着けッ」
まともに名前も呼べない程狼狽えた蛍が、近寄った義勇の羽織を強い力で鷲掴む。
余程怖い何かを見たのだろうか、鬼面をしていても恐怖に青褪める顔が見て取れるようだ。
「手が…ッ足に! 掴んで!」
「(足?)何もないぞ」
「えぇえ!?」
見下ろす先には、蛍の草履が映っているだけだ。
そこに人の手などない。
「そんな馬鹿な!?」
「煩いなぁ…静かにしてくれないかな。耳が痛い」
「だって本当に手が…! 私の足を掴んでて…ッ」
「君だけ祟られてるんじゃないの?」
「っ!?!!」
「時透。それ以上怖がらせるな」
感情に訴える蛍の握力が増す。
このままでは羽織を引き千切られそうだと、義勇は溜息混じりに冷たくあしらう無一郎を止めた。