第5章 柱《弐》✔
そんな基礎上げと柔軟運動を繰り返していると、徐々に体は動かせるようになった。
息切れもすぐにはしなくなったし、蜜璃ちゃん程とまではいかないけど靭やかな動きもできるようになった。
基礎上げだけで訓練時間を使い切らずにいられるようになると、今度は杏寿郎相手に組手の訓練が追加された。
いや呼吸は?って訊いたら「まだだ!」と肌を突き刺すような大声で勿体振られた。
今度は毎日毎日、訓練を終えるぎりぎりまで組手で杏寿郎に飛ばされ投げ付けられ踏み台にされる。
相手は人間であっても鍛え上げられた剣士。
杏寿郎は剣術だけじゃなく体術も強いようで、偶に蜜璃ちゃんも参加していたけどあの腕力を持ってしてでも捻じ伏せられていた。
力技だけじゃない。
体の動き、関節の使い方、流れを読む目。
どれもが杏寿郎の方が蜜璃ちゃんより勝っているから、簡単にあしらえてしまうんだ。
──ダァンッ!
「ッた…!」
「一本! これで零勝 九十九敗! また煉獄さんの勝ちね!」
「まだまだ先の流れを読むのが下手だな、彩千代少女よ!」
「っはァ…杏寿郎が読めないんだよ…」
目線を向けているところとは全く違うところに技をかけたりするから、予想もつかない。
そんな相手から一本取ることなんて果てしなく厳しいと思う。
投げ飛ばされて背中から落ちた視界が、高い道場の天井を映す。
そこへ杏寿郎と蜜璃ちゃんの顔が覗き込んできた。
「立てる? 蛍ちゃん」
「ありがとう」
「ふむ…緊張感が聊(いささ)か足りないのかもしれないな…よし。次回からは走り込みと合わせて実践といこう!」
「走り込みと?」
差し出された蜜璃ちゃんの手を取って立ち上がれば、また大変そうな訓練を思い付いたらしい杏寿郎が案を出してきた。
走り込みって…あの走り込み?
軍隊みたいに掛け声を合わせてしていた?
「今までの走り込みはこの屋敷内でしていたが、次回からは外でする!」
「え? 外に出るの?」
と言うか出てもいいの?
「うむ! この裏にある山は屋敷の私有地だから問題あるまい!」
私有地とな…流石、豪邸のように広い屋敷。
元々杏寿郎の家柄が凄いのか、柱となれば優遇されるのか。
他の柱の住んでいる土地なんて見たことないからわからないなぁ…。