第12章 鬼と豆まき《壱》✔
(なんだこれは…傷?)
それは小さな傷跡のようなものだった。
木製の祠の扉の内側に、細かな線が入っている。
くすんだ木目の板に細く入る白い線。
よくよく見れば、それは幾つもあった。
呪いか儀式の類か。
顔を寄せて扉の内側を念入りに確かめようとした、義勇の目が見開く。
白い傷跡は、まるでついさっき付けられたかのような引っ掻き傷だった。
幾つも幾つも、扉の内側を掻き毟(むし)るように。
白く荒く削られた所々に、赤い付着物を見つける。
血痕だった。
幼い子供が入るだけで精一杯な、小さな祠。
その内側から、出口を求めて扉を掻き毟り暴れた跡のようなもの。
「節分に勝つって今朝言った癖に、何そのへっぴり腰。俺が恥ずかしい」
「それはそれ、これはこれ。私だって好き好んで怖がってる訳じゃ」
────シャン
それは儚い音色だった。
しかし一つの音色が立ち所に重なり、大きな音へと移り変わる。
一斉に揺れ始めたのは、蛍達が通ってきた道。
あの夥しい鈴が吊るされた場所だ。
ジャンジャンと煩い程にけたたましく鳴る鈴の音に、言い合っていた蛍と無一郎も口を閉じる。
「な…何。なんの騒ぎ…」
「…誰かがあの紐の間を通ったんでしょ」
「通っただけで、あんなに煩く鳴る?」
「意図的に揺らしてるんじゃない?」
「なんで? なんの意味があるの」
「誰かさんを怖がらせたいから」
「だからそういうこと言うのやめ! 怖くなるから!」
「もう怖がってるでしょ」
まるで蛍達の痕跡を追うかのように、鈴の音が敷地を囲うように広がっていく。
反射的に無一郎の背後に後退る蛍に、義勇は祠の扉を閉じて辺りを警戒した。
鈴の音は、この祠に触れた直後に起こった。
もし何か関係しているとするならば。