第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「今時、幽霊だの心霊だの流行らないでしょ。忍者の時代だって終わったのに」
「だからって安易に突っ込んでいいことにはならないと思う…! 忍者は皆の心に憧れとして残ってるよ!」
「それ君だけ」
「なんですと…!」
前に後ろに引かれた管が、ぎりぎりまでピンと張る。
十四歳にして才覚を発揮し、その細い体からは想像もつかない力を生み出す無一郎に、蛍もまた鬼の力を持つ者。
まるで綱引きをしているような事態に、もう少しで無一郎の手が祠に届く、という所で膠着(こうちゃく)状態となった。
「鬼が霊を怖がるなんて話、鬼舞辻無惨が知ったら笑うんじゃない、の…っ」
「笑うというより怒られそうな気がする…っ鬼の癖にって」
「わかってるなら離してくれないっ?」
「離れないんだって繋がってるから…!」
「…はぁ」
今にも引き千切れそうで千切れない。
ぎりぎりと悲鳴を上げる管を前に溜息をつくと、義勇が先へと踏み出した。
「義勇さんっ? 何して」
「何もないことを証明すればいいんだろう。怖いなら其処でじっとしてろ」
「えええ…! でもッ」
蛍に一瞥をくれることもなく、義勇の手は簡単に祠へと触れた。
不規則に貼られた札に触れてみるものの違和感は何もない。
「行くぞ」
「いつでも」
「ままま待って!」
小さな両開きの扉の取っ手を掴む義勇に、竹刀の柄に手を掲げ構える無一郎に、頭を抱えて怯える蛍。
三人三様のまま、ぱかりと扉は開かれた。
「っ…!」
「…これは」
「何?」
鬼が出るか蛇が出るかと、構えた義勇達の目に映し出されたもの。
「…何もない」
そこには暗い空間だけが残されていた。
これと言って何かを祀っている物はない。
「本当に何もないんですか?」
「ただの空洞だ」
「な、なんだ…吃驚した」
「だから言ったでしょ。怖がり過ぎだから」
「それは時透くんが怖がるようなこと言ってくるから…っ」
「俺の所為って言いたいの? 馬鹿なの?」
「え私馬鹿呼ばわりされるようなこと言った今?」
背後でやんやと言い合う二人に再び溜息をつきつつ、扉を閉めようとする。義勇の手がその途中で止まる。
祠の中には何もない。
しかしその扉の内側に、見慣れないものを見た。