第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「…祠(ほこら)?」
開けた敷地の真ん中に、それはぽつんと建っていた。
何かを祀っているようにも見える、小さな小さな祠。
禰豆子の木箱程の大きさで、その至る所には札のようなものが貼られている。
(あ。これ駄目なやつだ)
瞬間、蛍は直感した。
まるでいつぞやの怪談話でしのぶが語っていた話のようではないか。
これは人でも鬼でもない。
この世のものが触れてはならないものだと。
「どうやら祀ってた訳じゃないみたいだね」
同じく気味の悪さを無一郎も感じ取ったのか、開けた敷地に踏み込む前に用心深く辺りを見渡している。
「鬼でも閉じ込めてるのかな」
「だったらお館様に報告しているはずだ。何故俺達が知らない」
「お館様と宇髄さんだけの秘密なのかも」
「じゃあ触れない方がいいんじゃ…虹丸もいないみたいだし。他所(よそ)、探そう?」
じっと祠を遠目に見る二人に、おずおずと案を挙げる。
屈強な鬼面からは相反する弱気な蛍の姿に、無一郎はじっと目を向けるとぽつりと一言。
「怖いんだ」
「う。」
鬼の癖に、とでも言い出しそうな顔で、呆れた溜息をついた。
「鬼の癖に」
「いや鬼関係なくないっ?」
その思いを黙っていることはできなかったようだ。
「怖いものは怖いから。あれ、胡蝶が話してた祠にそっくりだよ義勇さん。止めておこう。触れない方がいい」
「…胡蝶のあの話を聞いて、宇髄は特に反応を示していなかった。無関係だろう」
「何? 胡蝶さんの話って」
「空想の話だ」
「わかんないよ、空想なんて。隊士に聞いた話だって言ってたし。本当の話なのかも…」
「だから何、その話って」
「だったら祠の周りには人の爪が散らばっているはずだ。そういう類のものは見えない」
「うわあそういうこと言わないで! 余計怖くなるから!」
「だからなんの話…もういい」
「うわっちょ、時透くん!?」
不意に強く腕を引かれた。
見れば、蚊帳の外に放り出されていた無一郎が、二人に目もくれず先へと進んでいくではないか。