第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「…ありがと。義勇さん」
「事実を言っただけだ」
「だからだよ」
曇りのない義勇の言葉は、建前も気遣いもない。
だからこそ不安な時には力強い後押しをしてくれる。
「最初は不安だったけど。義勇さんが一緒の鬼でいてくれたから、よかった」
多くは語らずとも、蛍の足元が揺らぐ時はいつも見える所に立ってくれている。
まるでその役目を知っているかのように。
杏寿郎の言っていたことは、強ち間違いではないと蛍も感じていた。
「じゃなきゃ早々負けてたかもしれない」
「……」
「義勇さんが私と組まされてくれてたら、もうちょっと上手く共闘できたかもしれないけど、ね」
「……俺は、」
無一郎と繋がった腕輪を上げて笑う。
蛍のその声だけを頼りに、義勇の黒い眼が彼女へと向く。
「節分の鬼でなくても、お前のその志なら同意した」
「…私、の?」
「ここからでも視える」
表情は見えない。
しかし鬼面の目元の暗い二つの穴から、こちらを覗いている赤みを帯びた瞳が垣間見える。
この距離ならば捉えることができる感情だった。
「鬼の顔をしていようとも、お前の眼は"人"の眼だ」
「……」
「その眼を見れば、何を信ずるべきかわかる」
以前にも、義勇から告げられた言葉だった。
お前の牙は斑だと言われた。
しかしその眼は人間だったと。
義勇の瞳に、自分はどのように映っているのか。
その闇より深い黒い眼に、自分の姿はどんな形で現れているのか。
ただ受け止めていただけの言葉に、ふと疑問が湧いた。
それは好奇心に近い感情だったかもしれない。
この男性(ひと)は、何故こうも自分に真っ直ぐな瞳を向けてくるのか。
「義勇さ──」
「止まって」
ぱきぱきと小枝を踏み付けていた足音が止まる。
二人を止めた無一郎が何かを見つけていた。
(あ。明るい)
先程の薄暗さが一転。
茜色の夕日が綺麗に映える目の前には、生い茂る木々がなく円状に開けた敷地となっていた。
視界は広くなったが、同時に蛍はひやりと冷たい空気を感じた。
実際に空気が冷えていたのかは、わからない。
しかし確かに凍えさせたのは、目の前の光景だった。