第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「明らかに何かを祀るか、閉じ込めるかしてるでしょ。これ」
「や…やっぱり」
「だから何って話だけど」
「ええ…!」
「鬼を閉じ込めてるなら退治すればいいだけの話だし。入るよ」
「待って時透くんっ」
蛍の制止も聞かず、するりと紐と紐の間を器用に避けて滑り込む。
ぱきりと踏み付けた小枝の音以外は、静寂のみ。
(森の中なのに、動物の気配も虫の声もしない)
静寂こそが不穏な証。
しかしそれ以上は何も起こることなく、無一郎は先へと踏み出した。
「ほ、本当に行くの…っ」
「躊躇していると引き摺られるぞ」
「義勇さんまでっ」
後に続いて敷地内へと入る義勇に、蛍は一瞬迷う素振りをみせたがすぐに諦めた。
自分の腕の管は、先を進む無一郎へと続いている。
彼が進む限りは行動を共にする他ない。
「ああもう…」
諦めの嘆きを漏らして、蛍もまた鈴を鳴らさないように慎重に紐の間に体を滑り込ませた。
「なんだか視界が暗い…」
「日が落ちてきたからな」
ぱきりぱきりと枝を踏む音が三人分。
目印となる鴉が消えてしまった茜色に染まる空を、蛍は鬼面越しに見上げた。
「(もう夕方なんて…)…勝てるかな」
日が沈むまでに全員の命の札を奪わなければ、鬼の負けとなってしまう。
平民の札は奪うことができたが、まだ残っているのは隊士役となる柱達。
「残るは天元と不死川と悲鳴嶼さんと…杏寿郎も」
残る隊士は、確かな実力者ばかり。
このまま見つけ出すこともできないのではないか。
「心配するな」
「え?」
「例えこのまま時間切れになったとしても、彩千代が時透と共闘した事実は残る。甘露寺達も見ていた」
視線は前に向けたまま、まるでその不安を汲み取るように義勇は告げた。
「お前が今日したことは無駄にはならない」
「…でも、あれ共闘って言うのかな…」
「甘露寺にはそう見えていたんだ。ならそれでいいだろう」
「…そうかな」
「そうだ」
おずおずと不安を口にする蛍に対し、義勇の声は微弱に揺れることすらない。
その視線と同様、真っ直ぐに前を向き続ける言葉に蛍は鬼面の下で僅かに口元を緩めた。