第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「義勇さん。この先入ったことある?」
「この山に来たこと自体、初めてだ」
(あ。)
自分は他の柱達とは違うと言って、距離を置いている義勇のこと。
野暮なことを訊いてしまったと、蛍はそっと口を閉じた。
「じゃあ時透くんは…」
「黙って」
(え。)
左側を歩いていた義勇から、今度は右側を歩く無一郎へと目を向ける。
しかし皆まで問い掛ける前に、ぴしゃりと返された。
やはり先程の異変を何かしら引き摺っているのか。
そう思ったが、どうやら無一郎が拒否したのは別の意味があったらしい。
「あれ」
そう、彼が目線で促した先は。
「何、あれ…」
生い茂る木々の枝で、薄らと暗がり始めた山奥。
木々の幹という幹に結ばれているのは、先程見た真っ赤なものとは違う、真っ白な注連縄。
そして幹から幹へ、張り巡らされている幾つもの紐。
その紐には、丸い何かが一定の間隔で結び付けられていた。
「鈴?」
近寄れば、それが錆び付いた鈴だとわかる。
ひっそりと静まり返った森の中で、微動だにすることなく紐からぶら下がっている。
ほんの少しでも触れてしまえば、音を立てて揺れ出しそうな不安定さがあった。
その不安定さからか。触れるには気が退けて、蛍は伸ばしかけた手を引っ込めた。
「本当に此処なのっ?」
今一度虹丸へと呼びかけるも、煌びやかな姿は木々を越えて消えてしまっていた。
「行って確かめればいい」
「あっ」
先へと踏み出そうとした義勇の腕を、咄嗟に蛍が掴む。
「?」
「ぁ、いや…その、上手く言えないけど。こういう場所って、あんまり踏み込まない方が…」
「この先に宇髄がいるんだろう。行かなくてどうする」
「そうなんだけど…その、」
何本もの木に括られた注連縄も、大量の鈴も、明らかにその奥の敷地を囲うように作られてある。
「この先に何かあるんじゃないかな…」
「? 何もないはずはないだろう。宇髄がいるなら」
「そういうことじゃなくて…」
「何。怖いの?」
言葉を濁す蛍と頸を傾げる義勇の間を、割って入ったのは表情一つ変えていない無一郎だった。