第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「…何してるの?」
「あっ時透くん! もう大丈夫っ?」
「君達が煩くて頭抱える暇もないよ。で、何?」
「宇髄の鎹鴉だ。何か伝えに来たのでは…問題でも起きたのか?」
「アアソウダ大問題! イチ早クオ前達ヲ連レテ合流セヨトノオ達シダ!」
普段の態度に戻った無一郎が呆れ気味に、慌ただしく絡み合う鬼と鴉を見やる。
バサバサと蛍の頭上で激しく羽撃き、緊急を体現する虹丸に義勇も目の色を変えた。
「その問題とは?」
「説明ハ天元カラアル! 俺ハ案内役ダ!」
「わかった。今すぐその場へ案内しろ」
「遅レヲ取ルナヨ! 俺様二ツイテ来イ!!」
高らかに鳴き、空へと舞い上がる。
最初こそ鴉らしかぬ姿に目を疑ったが、煌びやかな装飾は良い目印となった。
「問題って?」
「さあ。もしかして鬼が出たのかも」
「えっ」
「とにかく急ぐぞ」
走り出す義勇を先頭に、蛍と無一郎も急いで虹丸の後を追い駆け出した。
虹丸が案内した先は、蛍も見覚えのある場所だった。
宇髄天元の屋敷、音柱邸より近場にある山。
其処で何度も天元と組手の訓練を行ってきたからだ。
しかし虹丸が進んだのは、それより更に山奥。
蛍が踏み込んだことのない領域だった。
「此処って確か…」
初めてこの山へ訪れた時に、天元に一度だけ告げられた。
「これより先には入るな」と。
その目印となっている赤い注連縄のされた大木を、通り過ぎていく。
ぱきぱきと踏み付ける小枝の音が、心無しか大きくなった気がした。
「ねぇ、本当にこの先なのっ?」
空を舞う鴉に問い掛けるが、高い上空を滑空するそれに声は届いていないのか。速度は最初程速くはなくなったが、振り返る素振りも止まる素振りもない。