第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「私が作ったおはぎも全部食べてくれた。私が鬼だってわかってても、口にしたものは残さず食べてくれたでしょ」
「……」
「だから本当はわかってるんだよね。時透くんは、ご飯を大事に食べられる人だから」
鬼面で蛍の表情は見えない。
なのに柔らかな声に感情を乗せて伝わってくるようで、知らずに無一郎は目を逸していた。
「…知った口を利かないでくれるかな。俺のこと知らない癖に」
「それはそうだけど……じゃあ、」
「?」
「教えてって言ったら、話してくれる?」
予想もしない問い掛けだった。
思わず足を止める無一郎に、管の腕輪で繋がれている蛍も足を止める。
「何、言ったの? 今」
「時透くんのこと。教えてって言ったら、話してくれるのかな…って…」
「俺のことって何」
「え。」
まさかそこまで喰い付かれるとは思っていなかった。
問い掛けた蛍の方がたじたじと、無一郎に向き直る。
「ええっと…柱になったきっかけ、とか? 凄く短い期間で柱になったんだってね。その前は何をしてたの?」
「…その前…」
「うん」
「……」
「…え、っと」
呟いたきり動かなくなってしまった無一郎に、更にたじたじと蛍は視線を回した。
助けを求めるように義勇を見れば、ついて来ない二人に足を止めて振り返る。
が、何も言わず無表情のままじっと立ち尽くしている。
(助けて義勇さん!)
「?」
(頸傾げてないで!!)
意思疎通は程遠い。
(柱になる、前?)
そんな蛍の焦りなど露知らず、無一郎はじっと一人考え込んでいた。
思い起こすは、昔の記憶。