第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「んしょ、と…」
じゃらじゃらと音を立てる大きな麻袋を、よいせと担ぐ。
持ち上げたそれはずしりと重い。
女手では到底運べないものだが、蛍にとっては石ころを担いでいるようなものだ。
なんなく進む足に、しかし隣を歩く無一郎の顔は訝しげなものだった。
「ねぇ。それわざわざ運ぶ必要ある?」
「なんで? 寧ろ放っておく必要ある? 食べ物なのに」
さも不思議そうに返す蛍の言う通り、麻袋の中には大量の食材となる小豆が入っている。
それは全て、この節分で投げ付けられた産物だった。
「これ全部で何人分のおしるこ作れると思ってるの。勿体無い」
「勿体無いって。君は食べられないでしょ」
「でも他の人達の胃袋は満たせるでしょ。え? 節分で使った小豆って捨てるの? まさか」
「いや。全て回収される」
「ほら」
前方を見据えたまま先頭を歩く義勇の回答に、蛍は満足そうに頷き、無一郎は無言で溜息をついた。
一番高い位置に太陽があったのは、蜜璃達と西瓜を食していた時間。
燦々と照らす陽光に濡れた衣類はすっかり乾き、声援を送る蜜璃とねちねちと文句を言う小芭内と別れを告げ、今に至る。
その後対面した平民達からは、蛍の異能によってほとんど大した戦闘を交える暇もなく木札の奪還に成功した。
そして蛍が彼らから奪ったのは、木札だけではなく投げ付けられた大量の小豆もまた。
食べられないはずなのに何故そんなにも固執するのかと、無一郎は疑問でならなかった。
「蜜璃ちゃんの西瓜と同じだよ」
「…何?」
「時透くん、蜜璃ちゃんの西瓜を貰って食べてたでしょ。西瓜なんてどうでもいいって言ってたのに」
「それは渡されたから仕方なく、」
「必要ないなら捨てればいいよ。それをしなかったのは、そこまでして切り捨てるものじゃないってわかってたからでしょ」
蛍が言い切れたのは、何もあの岩場での一面を見たからだけではない。
思い出すのは、初めて無一郎と出会った時のこと。