第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「そりゃどうも。俺がこんな性格なのはとっくに知ってんだろ?」
「ああ、知っている。だから蛍も君に突っかかるんだ。あまり悪絡みはするな」
「いけ好かねぇか? 好きな女に絡まれんのは」
「…さっきからその括りで呼ぶのは止めてくれないか?」
「それこそド派手に真実だろ? いつになったらお前は踏み出すんだよ」
「……」
「見てていじらしいが、俺的にはさっさとくっついてくれた方が楽し…」
柱の中で唯一の所帯持ちである天元である。
それは目敏く、杏寿郎の変化を見抜いた。
蛍関連となると黙っていない杏寿郎が、好意を寄せていることは確認せずとも確信している。
その杏寿郎が、口を真一文字に結んで黙り込んだ。
見れば目線も合わせず、かと言って手元の仕事に戻った訳でもない。
身動き一つせず沈黙を作る杏寿郎に、彼の性格もよく知っていた天元は目を見開いた。
「おいまさか…おいおい待て待て。まじか」
「…俺は何も言っていないぞ」
「見りゃわかるわ! そーかそーか、とうとう自分の女にしたか!」
「お…ッそういう言い方はどうかと思う!!」
「だってそうだろ? やっぱ俺の目に狂いはなかったな。そーかそーか、こりゃ蛍に赤飯炊いてもらわねぇと♪」
「っ…君は色々飛躍し過ぎだ。想いを告げただけで、それ以上も以下もない」
「じゃあつき合ってねぇのかよ? 俺が貰ってもいいのか?」
「良い訳ないだろう! 蛍は俺の継子であり、大切な女性だ。手を出したら宇髄であっても容赦はしない」
「冗談だよ、そんな殺気飛ばすなって(おー怖っ)」
常日頃大声を張っている杏寿郎だが、彼が真に怒りを彷彿とさせる時は静寂に返す。
静かな怒火のように伝わる殺気が、逆に恐ろしいのだと天元は肩を竦めた。
「でもよ、蛍を大切にしたいだけじゃなく、自分のものにしたい欲もあったんだろ? 男なら誰だって持つもんだ」
「……」
「鬼殺隊の柱としても、そこんとこには興味があるワケよ。人と鬼が交わると、どんな結果をもたらすのか。俺だけじゃなくお館様だって興味を持つと思うぞ。…その覚悟はできてんのか?」
立ち話とはならない内容の為に、開いた襖の側に腰を下ろす天元。
杏寿郎もまた握っていた筆を硯の上に置いた。