第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「それでもやっぱり無一郎くんのお陰もあるわ。機転を利かせたのは蛍ちゃんだけど、鏑丸くんと西瓜を救出してくれたのは無一郎くんだから。離さないでくれて、ありがとう」
にっこりと微笑む蜜璃。
その優しい笑顔越しに、じとりと見てくる小芭内の目がある。
恋柱の彼女とお近付きになろうものなら、誰であっても敵対心を持つ彼が何も言わないのは、鏑丸の恩もあるからだろう。
しかしそんなことを知る由もない無一郎は、溜息混じりに西瓜を持ち直した。
「いただきます」
「ええ、どうぞ!」
食べ物に罪はない。
しゃくりと齧れば、水流で冷やされた西瓜は瑞々しく甘く口内に染み渡った。
「冨岡さんもどうぞ!」
「そんなことをしている暇は…」
「そんなこととはなんだ。甘露寺の用意した西瓜が食べられないのか貴様」
「……」
「とりあえず頂きましょうよ、冨岡さん。服も乾かないと着れないし」
しゃくしゃくと大人しく西瓜を頬張る無一郎の言う通り、全員今は薄着の状態。
濡れた羽織は木々にかけられ、はたはたと揺れている。
雨季も終わり間近。
夏が顔を見せ始めた天候は運良く快晴。
川で冷えた体で、温かい太陽に当たるのは心地良い。
岩場で並んで西瓜を食す。
鬼役と隊士役であるはずの彼らの姿に、溜息をつきつつ義勇も西瓜を受け取った。
「…いいなぁ」
燦々と太陽光が降り注ぐ岩場に並んで、和気藹々(わきあいあい)と西瓜を頬張る。
そんな柱達の姿に、木陰で座り込んだまま蛍は羨望の眼差しを向けていた。
皆と等しく濡れた着物を乾かしている間、鬼面も外し木陰で休息を取る。
中着の黒服は着衣したままだが、どうにもあの心地良さそうな岩場へは足を向けられない。
人間にとっては心地良いものでも、鬼である自分には命取りともなる場だ。
それでもその光景を見ていると、純粋に羨ましかった。
「くしゅんっ」
「…ムゥ」
「あ。禰豆子」
木陰では冷えた体も温まらない。
小さなくしゃみを零す蛍に、隣に置かれていた木箱から禰豆子が顔を出す。
あんなにも太陽の世界が近いことを怖がっていたが、隣に座る蛍の存在の方が気になったのか。恐る恐ると蛍の下へ、四つん這いで這い出してきた。