第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「二人で手と手を取り合って共闘するなんて素敵だったわっ」
「取り合うというか、背中蹴られただけだけど」
「あの、それより」
都合の悪いことは拾わない蜜璃の耳に、今更だと溜息一つ。
呆れた顔で無一郎が指したのは、川の先。
「西瓜、流れてますけど」
「え」
「あ」
指の先を追えば、浅瀬に置いていたはずの西瓜がぷかぷかと波に揺られながら下流へと流れ出していた。
「ああッ! 西瓜が!?」
明るい顔を一転、この世の絶望であるかのように蒼白した蜜璃が飛び出す。
「待ってぇ!」
「待て甘露寺! その先は滝だ!!」
「えっそうなの滝あるの!? 蜜璃ちゃん危ないよ!」
「なら西瓜は諦めた方が…」
「そんなの嫌! 折角隠さん達に譲って貰った西瓜なのに…!」
「あ、やっぱり譲って貰ったんだ」
「やっぱり一人で食べるつもりだったんじゃ…」
追いかけながらも各々が各々の思いを吐き合う間にも、西瓜はどんどん下流へ流されていく。
足場の悪い川の中では、速さを増す西瓜に追いつけない。
小芭内の言う通り、西瓜が流れる先には──その先がなかった。
「ほ、本当に滝だ…!」
「っ鏑丸(かぶらまる)!」
ドドドドド!と流れ落ちる水が轟音を上げる程の大きな滝壺。
予想以上の大きさに、よく気付かなかったものだと蛍は足を止めた。
小芭内の白蛇が、折れた竹刀に絡み付く。
と同時に片足を踏み込んだ小芭内が、槍投げのように竹刀を真っ直ぐに放った。
西瓜を狙わず近場の水へと突っ込んだ竹刀から、するりと抜けた鏑丸が西瓜の蔓へと胴を巻き付ける。
「鏑丸くんっ!」
「あれだと落ちるぞ。西瓜と一緒に」
必死に流れに逆らって泳いではいるが、鏑丸は特異な力を持った蛇ではない。
義勇の予想通り、重い西瓜につられて必死に泳いでも滝壺目掛けて流されていく。
「やっぱり私が…!」
「駄目だ! 鏑丸ならこれくらいで死にはしない!」
「でも西瓜がぁ…!!!」
蜜璃の悲痛な叫び通り、滝壺に落ちれば蛇は無事でも西瓜は木っ端微塵となるだろう。
流石にそれを否定できなかった小芭内は、返事を詰まらせた。