第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「やった! 時とウッ!?」
喜び勇んで振り返る。
しかしその声は呻きとなって、再び体は重力に逆らうように動いた。
背中を蹴り飛ばされたのではなく、今度は引き寄せられて。
伸縮性のあるゴム管が、限界まで伸びたそれを一気に縮めたのだ。
等しく限界まで離れた蛍と無一郎を一気に引き寄せる。
ゴチン!
受け身を取る暇もなく、盛大に頭と頭が衝突した。
「ッッ〜…!?」
「痛ぅ…っ」
声もなく悲鳴を上げる蛍と、流石に堪えたのか小さな声で蹲る無一郎。
二人して頭を抱えて悶える中、ぱしゃんと蜜璃が川底へ尻をついた。
「隊札獲られちゃったぁ〜!」
「!? 甘露──」
蜜璃の泣き声に反応した小芭内が、一瞬足を止める。
その隙を義勇は見逃さなかった。
腰を低く下から払った竹刀が、小芭内のへし折れた竹刀を弾く。
耐久性の弱まっていた竹刀では力を受け流すことができず、小芭内の手から離れ飛んだ。
「獲った」
「…く」
ぴたりと心臓の前で竹刀の先を止める義勇に、小芭内の顔が歪む。
札は獲らずとも勝敗は決した。
「彩千代。時透。こちらも勝……どうした」
「なんでも、な…アタタ…」
「なんで避けないかな…イッタ…」
「?」
ようやく一息ついた義勇が見たものは、仲良く座り込み頭を抱えている黒鬼と青鬼。
「くすん…負けちゃった…」
「…甘露寺、怪我はないか」
「伊黒さん…ごめんなさい、私」
「君が無傷ならそれでいい。それよりそんな所に座っていると、体を冷やす」
「伊黒さん…」
普段はねちっこく根に持つ性格の小芭内が、自身の敗北より目の前の蜜璃を優先する。
優しい声で片手を差し出すその姿に、蜜璃の涙声が止まる。
負けはしたが、命を賭けた勝負ではない。
未だ頭を抱えている蛍達に向ける蜜璃の顔は、明るかった。
「負けちゃったけど、仕方ないわね。蛍ちゃんと無一郎くんの息がぴったり合ってたから」
「いや…ウン」
「これのどこが合ってたのか、疑問ですけど」