第12章 鬼と豆まき《壱》✔
(恋の呼吸も基礎は炎の呼吸と同じ…!)
炎の呼吸から派生した恋の呼吸。
ならばどちらも元は一つだったことになる。
完全にものにできた訳ではないが、杏寿郎から炎の呼吸の基礎は学んだ。
呼吸にも一連の動作がある。
しなやかな猫のように蛍の影を避ける蜜璃は、一見不規則で捕まえ難い。
しかし呼吸を扱う瞬間は、その動作にも一連の動きが生じる。
そこにつけ込めば。
「"猫足恋──」
(あれだ!!)
片足を軸に反転する蜜璃の体に、等しく片足を軸に蛍も回る。
この後は飛躍。
それから呼吸技を叩き付けるのだ。
体の柔軟さなら蜜璃の手で解してもらった。
追いつけないことはない。
杏寿郎相手なら、尻尾を捕えても力に圧倒されて弾かれていた。
しかし相手が蜜璃なら。
「きゃッ」
「捕まえた…!」
影で捕えられはしなかった。
しかし先読みした蛍の手が、蜜璃が飛躍する前に隊服の襟を掴む。
「これなら不可避!」
「はわ…!」
ざわりと蛍の影が波を打つ。
浅い水の底を辿り蜜璃へと移りゆく影が、ざわざわと人の手を模り追い求めた。
見た目の印象からだろうか、忽ちに青褪める蜜璃の隊服へと忍び込む無数の手。
「さぁ木札を出し」
「ひゃあぁあ!」
「!?」
「蛍ちゃんの」
「へ?」
「助平ぇ!!」
「わぁっ!?」
捕まえたはずの体制で、真っ赤に顔を染めた蜜璃に襟首を掴まれる。
かと思いきや、ぐるんと片足を軸のまま一回転した蜜璃が、蛍の体を勢いよく放り投げた。
振るった衝撃で蜜璃の胸元からぽろりと落ちる、赤い札。
(木札が!)
放り投げられた蛍の手では届かない。
虚しく手を伸ばしたまま、捌倍娘の力で投げ飛ばされた体が後方の林へと落ちる。
はずだった。
「口を開けない方がいいよ」
「っぐぇッ!?」
放られた衝撃で緩んだ腕から抜け出していたのだろう。背後に回っていた無一郎の足が、蛍の背中を強打した。
渾身の力で蹴り飛ばされた体は、体制を崩し蜜璃へと追突する。
「ッ…獲ったぁあ!!」
伸ばした手は蜜璃よりも一歩早く。
今度こそ零れ落ちた木札を掴み獲った。