第12章 鬼と豆まき《壱》✔
ひらりひらりと避けるばかりで攻撃しない無一郎は、蛍の提案通り協力はしないが邪魔もする気はないのだろう。
しかし二人の間に長く伸びた管は、連携が取れていない状態では思わぬ障壁となった。
(義勇さんはッ?)
視界の隅で追った赤鬼は、小芭内と対峙している。
禰豆子を庇っての戦闘は難しいかと見られたが、相手も竹刀を折っている身。
そして柱同士である二人に、隙入る暇はない。
(こうなったら…っ)
義勇の助太刀は望めない。
向き直ると、蛍は管を綱を引くようにして両手で握った。
「ごめん時透くん!」
「は? 何──」
蜜璃に集中していて、横からの力は予想していなかった。
不意を突かれてぐんっと強く引かれた管に、無一郎の足は地を離れた。
「脇失礼!」
「…何これ」
「まあ! 蛍ちゃん力持ち!」
引き寄せた管で無一郎の体を巻くと、少年特有の細い腰に片腕を回す。
がっちりと片手で担ぎ上げた無一郎の体が、ぷらんと蛍の横で揺れた。
「協力しなくていいから、邪魔しないついでに大人しくしてて下さいっ」
鬼の腕力であれば少年一人担ぐことは何も問題ない。
「なんでそんなこンッ」
「口開かない方がいいけど!」
「男の子抱えて跳ぶなんて、蛍ちゃん格好良い!」
「大丈夫蜜璃ちゃんにもできるから!」
「そうかなぁ!? 私は抱えるより殿方に抱えられたいかなぁ…なんてっ♡」
片腕は塞がれるが、邪魔な管がないだけ余程いい。
無一郎を抱えたまま接近戦に持ち込む蛍に、笑顔で応える蜜璃の視界も狭まってはいなかった。
しなやかな体を捉えようと影を伸ばせば、影同士が重なる前に回避される。
「蛍ちゃんの異能は影鬼でしょ? 煉獄さんから聞いてるわ!」
「っ」
ふふん!と胸を張る蜜璃に、自分の知らぬところで情報が交差していたことに蛍は舌を巻いた。
元師と継子であれば、誰よりも接点は多いはずだ。
(待って)
ふと自分の思考回路に目を止める。
師と継子である二人なら、杏寿郎と蜜璃にも接点はあるはずだ。
元々蜜璃は炎の呼吸を習う為に杏寿郎の継子となった。
その過程の途中で恋の呼吸を派生させた。
となれば。