第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「甘露寺、西瓜は後だ。先にこの鬼共を殲滅しなければ」
「はっ! そうよね、鬼退治!」
「待って今殲滅って言ったけど伊黒先生。殲滅て」
「殲滅は殲滅だが?」
「いやこれ遊びで」
「よぉーし頑張るぞぉ!」
「蜜璃ちゃんやる気だね!」
西瓜を水流へと浸して袖捲りする蜜璃の手にも竹刀。
先に戦闘態勢へと入ったのは隊士の方だった。
いち早く反応を示した義勇が、木陰に置いたままの禰豆子の箱へと走る。
「逃がすか…!」
それを逃避と取った小芭内が後を追う。
「義勇さ」
「えぇい!」
蛍も続こうと背を向けた。
そこにひらりと跳んだ蜜璃の体が、しなやかな弧を描く。
振った竹刀の先は遠く、蛍達には届かない。
しかし感じた悪寒に一歩退けば、ずばんと何かが蛍のいた場所を切り裂いた。
「えっ」
なんだ今のは。
目を剥く蛍の前で、ぱしゃんと水場に着地した蜜璃が竹刀を見て眉を八の字に下げる。
「やっぱり日輪刀じゃなきゃ上手く呼吸を扱えないわね…」
「(蜜璃ちゃんの呼吸って…)恋の呼吸?」
「そう! 覚えててくれたの? 嬉しいっ」
名前は聞いたことがあるが、その能力については未知数だ。
杏寿郎の炎の呼吸や義勇の水の呼吸であればなんとなく想像はつく。
しかし恋の呼吸とは。
「今のはね、"猫足恋風(ねこあしこいかぜ)"っていう技で。こう、脚の筋肉を使ってね、」
ひらりと再び弧を描き跳ぶ。
しなやかな体をバネのように扱い、予想もつかない角度から振るわれる斬撃。
避けようにも、斬撃は飛ぶ。
そして足場は不安定な水場。
再び水を切り裂く攻撃を擦れ擦れに避けることはできたが、その斬撃は蛍と無一郎の間。伸びた管に斬りかかった。
「っ…!」
「わぁっ凄い! その紐、硬いのね!」
ゴムのように伸縮性のある管は、真剣ではなかったこともあり蜜璃の斬撃で断ち切られはしなかった。
それでもぶるぶると斬撃による振動が、蛍と無一郎の動きを鈍らせる。
「でも隙が多いわ!」
「く…ッ(この管、邪魔だ…!)」