第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「そ、そうよね。一人じゃ多いわよねッでもまずは冷やさなきゃと思って…それからね、皆の所に」
蛍達が立つ岩場。
太陽に照らされたその白い足場に、ぽつんと増えた小さな影。
その影が人並みの大きさを増したのは、一秒にも満たない速度だった。
気配に勘付き左右に避けた蛍達の足場が、真上から垂直に落ちてきた衝撃にばかんと割れる。
大きな飛沫を上げて跳ね上がる小川の水。
その中心に立っている男は、ざあっと雨のように降り注ぐ水場に冷えた目で睨んだ。
「その西瓜は俺と甘露寺で食べる分だ。彼女一人分じゃない」
「い、伊黒さん…!」
盛大に胸をきゅんと鳴らした蜜璃が熱い視線を送る先。
其処には隊士役である伊黒小芭内の姿があった。
「え? でもさっきまで一人で西瓜を冷やンモ」
「それ以上はやめよう時透くん(伊黒先生の地雷踏むから)」
淡々と地雷を尚踏もうとする無一郎の口を咄嗟に手で塞いで、蛍は頸を横に振った。
それ以上煽れば、十中八九蛇のような形相の男は斬り掛かってくるだろう。
(というか竹刀で岩を割ったけど。どういうこと)
それよりも何よりも見過ごしてはならないことがある。
縦に割れた岩場の間に立つ小芭内の手には、義勇と無一郎のそれと同じ竹刀が握られている。
先程の衝撃に耐えられなかったのか、へし折れた竹刀に小芭内は舌を打った。
「チッ、脆い」
(いや脆いどうこうの前に。竹刀で岩割ったからどういうこと)
凡そ常人では成しえない。
隊士役である彼こそ鬼ではなかろうか。