第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「俺は協力しませんよ」
その場の空気に水を指すような淡々とした冷たい声。
見れば、隣の岩場に座った無一郎が体を洗い終え、身形を整えていた。
「柱と協力しようとも節分で勝とうとも、鬼は鬼でしょ。他人の見る目は何も変わらない」
「…それは時透くんの目、だよね」
「だったら何?」
「その目を、無理に変えてもらおうとは思ってない」
変えようにも変えられない者がいることは蛍も知っている。
しのぶのように。
彼らにも彼らの生きた道があるのだから。
「協力しなくていいから。ただ、邪魔もしないでくれたらいい」
生憎、繋がれた管はこの小川を渡れる程の長さはある。
多少動きは制限されるが、気を付ければ問題ない。
「それでいい?」
少年の背丈には多少大きな隊服。
その袖をぱんぱんと払いながら、無言で無一郎は腰を上げた。
溜息混じりの表情は、無言の肯定の意か。
意図を図ろうと同じく腰を上げた蛍の耳に、聴こえてきたもの。
「宮さん♪ 宮さん♪ お馬のまーえにひらひらするのはなんじゃいな〜♪」
それは弾むような歌声だった。
「トコトン〜ヤレ〜♪ トンヤレナ〜♪」
「「「……」」」
るんたった、とリズムを取りながら体を左右に揺らす。
誰一人戦闘態勢に入らなかったのは、余りにも気の抜けた愛らしい歌声だったからだ。
「あ〜れは朝敵〜征伐せよと…の…」
じぃっと見守る三人の目に、河川側に立つ歌声の主が止まる。
ぱちりと大きな瞳を瞬いて、途端にびよんと跳び上がった。
「きゃあっ! 鬼さんがいる!?」
桜餅色の髪をおさげに結んだ少女は、隊士役の一人。
甘露寺蜜璃。