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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第12章 鬼と豆まき《壱》✔



「…変わったな。お前は」


 事前集会の時から感じていた。
 鬼が持つ生命力とは別の、蛍自身から溢れているもの。
 前を向き、踏み出そうとしているその姿に目を細める。

 眩しく感じた。
 まるで、あの燃ゆる炎の化身のような炎柱の姿を思い起こして。


「それは…」


 問い掛けた言葉を呑み込み、口を閉じる。


(煉獄の、お陰か)


 訊かずともわかっていた。
 柱同士で馴れ合おうとは思っていないが、だからと言って彼らに目を向けていなかった訳ではない。
 杏寿郎との柱のつき合いも、それなりに長い。
 彼が他者に目をかける面倒見の良い男だとは知っていたが、蛍に向ける目にはそれとは違う意味があることに気付いた。

 何故気付けたのか少なからず理解していた。
 義勇自身もまた、蛍を鬼の枠だけでは見ていなかったからだ。


「それは? 何?」

「…いや」

「?…あ。そう言えば、これいつかの義勇さんみたいだね」

「?」

「私の手元の血を拭いてくれた時…の……ナンデモナイ」


 楽しそうに話していた声が不意に途切れる。
 その時のことを思い出したのか、俯く蛍の表情は見えない。
 元から鬼面で見えないのだが、なんとなくその感情は義勇にも伝わった。

 あの夜のことを思い出せば不思議と胸が騒ぐ。
 僅かな蝋燭の灯りの中で見た、透き通る白い肌を義勇の羽織から覗かせた蛍の姿。
 困惑と羞恥の入り混じった表情に、吸い付くような柔らかな肌に、ほんのりと混じる血の香り。

 魅せられ、惹かれた。

 あの場でしのぶが止めなかったら自分はどうしていたのか。
 考えても答えは出なかったが、あの時の光景は忘れようにも忘れられない。


(…今はそんなことを考えている時じゃない)


 頭を振り払う代わりに瞼を閉じる。
 次に瞼を開けた時、心は決まっていた。


「彩千代」

「…何?」

「お前の意志はわかった」

「え?」

「今は俺も鬼の一人だ。お前が勝ちたいのなら協力する」

「本当っ?」


 驚き上がる蛍の声に、ひとつ頷く。

 相手が蛍だからではない。
 その意志に同調できたからこそ。
 否定する理由はない。

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