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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第12章 鬼と豆まき《壱》✔



 それと同時に、自身の体も縛られたように動けなくなったのだ。


「蛍ちゃんのあっ足っ足元がァ!! ウネウネしてるゥウウ!?!!」


 人一倍叫び声を上げている善逸の目が、飛び出さんばかりに凝視する。
 それは蛍の足元から四方八方、無数に触手のように伸びている影だった。
 全てが周りの隊士達の影を捕え、悍ましくもその色と形を膨らませている。


「ごめん善逸我慢して」

「何…っギャァアア!? なんか上がってきてるよォ何これ影これ!? 気持ち悪い!!」


 足元の影に絡み付いたまま、うぞうぞと黒い手を伸ばした影が脹脛、腰、胴体へと上っていく。
 それは悲鳴を上げる善逸だけでなく、全ての隊士の懐へと潜り込むと、やがて命の札を奪い取った。


「なんだそのみょうちくりんな技!? 卑怯だぞ蛍! 正々堂々勝負しろォ!!」

「勝負も何もないよ。鬼は平民に乱暴はできないんだから。ということで御命頂戴致します」


 憤怒で荒ぶる伊之助に律儀に頭を下げて、広げた風呂敷に全ての札をまとめて結ぶ。


「これで此処にいる人の札は全部。…後は、」


 ちらりと向けた目線の先は、いつもは絶やさない笑顔を消し去っているしのぶ。
 人一倍雁字搦めに絡めた影からは、柱の中で微弱な力の持ち主であるしのぶは抜け出せなかった。


「隊舎の中にまだ残ってる、他の平民の木札も貰いに行くから。アオイやカナヲちゃんもいるでしょ? 余り手荒にはしたくないから、胡蝶から譲ってくれるように言ってくれないかな」

「ご冗談を。何故鬼の肩を持つようなことをしなければならないんですか」

「この場に善逸達を一日中縛り付けておくこともできるけど」

「エッ!」

「善逸はまだ薬を飲まなきゃいけなかったよね。あれ、蜘蛛化を止める薬」

「エッ!?」

「飲まなかったら、善逸の体もやがて蜘蛛に──」

「イヤー!! 蜘蛛なんて嫌ァアアア!!!」

「だって」

「…随分と卑怯なことを考えるものですね」


 苦々しく吐き捨てるしのぶに、見えないとわかっていながら。
 黒い鬼面の下で蛍はにっこりと笑った。


「疑の悪鬼ですから」











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