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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第12章 鬼と豆まき《壱》✔



「どうやらその格好のお陰で、貴女は毒を貰わずに済んだみたいですが…残りは貴女だけ」


 紫外線から守る為に一部の隙間もなく肌は全て覆い隠している。
 それが蛍の命綱となった。

 す、と再びしのぶが片手を挙げれば、蛍達を取り囲むようにして隊士達が木刀を構える。


「ではその頸を獲らせて貰いましょうか。平民の手で」

「詰みだね。今までの節分で終わるの最速じゃないかな」

「こらそこ! 諦めないで!」

「だってどう見たって詰みでしょ。平民がざっと二十に隊士が一人。君だけで対処できる?」

「できるできないじゃなくてやるの! 私は勝つって決めたんだから…!」

「まぁ彩千代さん、この節分で勝つ気でいるんですか? 面白いですね」


 心底驚いた様子で口元に手を当てて問うしのぶに、蛍は鬼面の下でむっと口をへの字に曲げた。


「面白いって何。私は至って真面目だけど」

「この節分は鬼を討つべき行事なんですよ? 鬼は」

「負けて当然ってこと?」


 蛍の足元に作る影が、太陽の光でより一層濃く黒く地面に映る。


「じゃあ私が勝ったら、鬼を討つべきかどうか。もう一度考え直さないとね」


 ゆらりと、波紋のように蛍の影が波を打つ。


「オレに任せろ! ここで勝ったらオレが大親分だぞ蛍ッ!!!」

「あ! 伊之助!」


 最初に突撃したのは伊之助だった。


「覚悟しギッ!?」


 しかしその手が蛍へと届く前に、不可思議な声を上げて止まる。


「私に刀はないけれど、代わりに〝これ〟がある」

「!」


 いち早く気付いたしのぶが後ろへと飛び退く。
 しかしその小柄な体は、空中で固まり受け身を取れずに地面へと落下した。


「ッ…!」

「影があれば、何処へ逃げても捕えることができる」

「な、なんだ…これ…体が…ッ!?」

「ええええ!? 動かないけど!? なんで!? ねぇなんでェ!?」

「これは…っ蛍の…!?」

「つまり、攻撃せずに皆の命を獲れるってこと」


 一歩も動けない状態に足場を見下ろした炭治郎は、自身の影がぐにゃぐにゃと揺らいでいるのを見た。
 まるで長い胴で蛇に巻き付かれたかのように、影が黒い新たな影に縛られている。

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