第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「お望み通りその頸を獲ってあげましょう」
高い屋根の上から見下ろしながら、にこりと美しい顔で微笑んだ。
「平民達の手で」
す、と片手を挙げるしのぶの、それが合図だった。
「「「!?」」」
屋根を見上げていた義勇達の目に、晴天に舞う大量の小豆が映り込む。
後方で待機していた隊士達の手で一斉に放られた小豆は、大雨のように義勇達がいた場所へと降り注いだ。
「痛ッいだだ!」
ただの豆だとしても、大量に降り注げば地味に痛い。
ばちばちと当たるそれに頭を抱える蛍の横で、無一郎は竹刀を一振り。
払った小豆は天を舞い、彼の頭に落ちてくるのはこつんこつんと五、六粒程度。
「頭使ったら? なんの為の脳味噌なのそれ」
「私は日輪刀持ってないの!」
「これ日輪刀じゃないけど」
「そういうのは揚げ足取りって言うんです! 大体竹刀でも呼吸の技出せるって一体どういう」
「彩千代。時透」
無一郎と同じく竹刀で大量の小豆雨を払った義勇が、二人を呼び止める。
しかしその目は自身の掌を見つめていた。
竹刀を握っているはずのその手から、するりと柄が抜け落ちる。
「義勇さん?」
「…見誤ったな」
「何が……あれ…?」
「え? 何?」
義勇の異変に頸を傾げる蛍とは違い、無一郎もまた自身の足元を見下ろした。
脳から送る伝令に対して、体の動きが鈍い。
ぴりぴりと肌を伝う痺れは、明らかに異変を来した証拠だ。
「胡蝶は毒使いだったか…」
「そうですよ冨岡さん。忘れないで下さい」
ふわりと屋根の上から舞い降りたしのぶが、足元に転がっている小豆を一つ、摘み取る。
その手には治療の際にも使う、薄い手袋が使用されていた。
「これは私が特別に調合した麻痺毒に漬けた小豆です。皮膚に触れれば熊でも動けなくなる。もう手足は自由に動かせないでしょう?」
「え? 今ので? たった数粒当てただけで? 怖ッ!」
「その声は彩千代さんですか? まぁまぁ、立派な鬼の姿ですねぇ。惚れ惚れします」
「それはどうも(思ってもないだろうけどね!)」