第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「鬼相手に余所見は致命的でしょ。それでも剣士?」
「ッ!?」
竹刀を振るう無一郎が、村田の目前に迫っていた。
ひやりと冷気が肌を刺すような錯覚を覚える。
それと同時に、がくんと村田の膝の力が抜け落ちた。
「な…っに…」
「はい一本」
目の前に膝を付いた村田の頸に、とんと無一郎の竹刀が軽く当てられる。
「命の札、出して」
「……」
「出さないと気絶させることになるけど」
「…ッ」
「ほら早く」
殺気を滲ませながら催促する無一郎に、カタカタと身を震わせるも村田は木札を差し出さなかった。
恐怖で動けないようにも見えたが、食い縛る歯は耐えているようにも見える。
(あの人、確か炭治郎と一緒に那田蜘蛛山で鬼を討とうとしてた剣士だったって)
鬼の血鬼術により人体を溶かす繭玉に閉じ込められたところを、しのぶに助け出されたらしい。
接点はなかったが、炭治郎とよく話す姿は蛍も見かけていた。
「ウォオオオオオ!! 猪突猛進!!!」
「待てよ伊之助! 相手は柱だってェ!」
炭治郎がいれば、知った他剣士がいても可笑しくはない。
獣のように無一郎に突っ込んできたのは猪の頭部を被った少年、伊之助。
その後ろでは恐々ながらも駆けてくる善逸の姿もある。
ひらりと大きく弧を描いて跳んだ無一郎は、伊之助の突進を避けながら心底だるけた溜息をついた。
「面倒臭いなぁ…次から次へと。不死川さん達みたいに再起不能にするしかないかな」
下手に情を持てば、それだけ厄介になる。
実弥と小芭内の対処は、非道なようで適切なものだった。
気絶させてしまえば抗われる心配はない。
「どうします、冨岡さん。別に負けてもいいけど、平民相手に頸を獲られるのはね」
無一郎の問いかけに、無言で義勇の目が向いたのは彼ではなくそれよりも高い位置。
隊舎の屋根へと向けた視界に、ひらりと華やかな蝶が舞い込んだ。
「おや。平民であっても、彼らも鬼殺隊の為に命を捧げた者達。馬鹿にされては困りますね」
可憐な声で穏やかに告げるは、義勇や無一郎と同じく竹刀を腰に下げた女。
胡蝶しのぶ。