第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「お礼?」
「蛍が鬼として勝利したら、その時は私から褒美をひとつ与えよう」
す、と人差し指を口元にひとつ。
告げられた言葉に、蛍は鬼面の下で驚きを隠せなかった。
鬼殺隊の最高責任者に容認されただけでも驚きなのに、彼は褒美をもくれると言う。
「お館様。何故そのようなことを」
「勿論、義勇達にも勝ったら褒美を与えるからね」
「そういう問題では…」
「問題なんてあるのかな?」
困惑気味に返す義勇とは違い、始終耀哉の顔は生き生きと笑っていた。
「今日は節分。大人も子供も祭りに興じる日だ。誰にでもその権利はある。ということで、皆手を出して」
「え?」
「手?」
「?」
頸を傾げつつ、鬼殺隊の最高責任者の命には従う他ない。
それぞれが腕を差し出せば、傍らに付き添っていたあまねが動いた。
がちん、と重い鉄の音。
「え?」
「…何?」
「?」
再び頸を傾げる蛍と無一郎と義勇の腕には、刃物でも斬れない頑丈そうな鉄の腕輪が取り付けられた。
「これを渡し忘れていてね。出発する前に声をかけられて良かった」
頑丈な腕輪には黒光りするゴム状の管が取り付けられていた。
その先を目で追った蛍がやがて見つけたのは、しげしげと不思議そうに腕輪を見ている無一郎。
「あの…ハイ」
「何かな? 蛍」
「なんか、繋がれてます…」
「うん。繋いだね。今回の鬼役は、柱と鬼でひとつだから」
「あの…ハイ」
「何かな? 蛍」
「なんで、その…時透くん、なんですか…」
「義勇は禰豆子の木箱を担いでいるからね。自然な選別だと思うけど」
ぷるぷると震える手を挙手して告げる蛍の顔は、鬼面で見えない。
しかしその心境はありありと伝わってくるようだ。
この仕打ちはなんだと。
耀哉の告げた通り、あまねの手で木箱の中にいた禰豆子にも取り付けられた腕輪。
その管の先は、義勇の腕輪に続いている。
(どうせなら義勇さんが良かった…!)
がくりと肩を落として意気消沈。
義勇も無一郎も口数は少なく表情も乏しいが、蛍にとっては天地の差だ。
女顔負けな美少年相手では、折角容認されたとて明るい未来など見えない。