第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「私達、今から鬼役をするんだよね?」
「ああ」
「鬼の役目って、皆の木札を奪うことだよね?」
「今更何言ってるの?」
「…じゃあ、」
ぐっと拳を握りしめて、蛍は一度唇を結んだ。
ずっと心内に溜めていたものを、吐き出すかのように。
「その木札を全て奪えば、私達の勝利。だよね」
予想だにしなかったのだろう。
義勇と無一郎が口を閉じる中、無言は肯定であると蛍は一歩踏み出した。
「お館様は、私達に負けろとは言わなかったから」
「…だから何? 俺の説明聞いてた? 節分は鬼殺隊の為に在るんだよ。俺が過去参加した節分でも鬼が勝ったことはない。それより前は、冨岡さんが知ってると思うけど」
「俺の知り得る限りでも鬼の勝利はなかった」
「ほらね」
淡々と告げる無一郎の責めには隙がない。
それでも蛍は後ろに引き下がらなかった。
見出してくれたのは師の言葉だ。
「柱と鬼を組み合わせることに、お館様は意味を持たせた。それなら…私達が勝つことにも、意味は…あるんじゃ、ないかな」
柱と鬼が共闘する様を、そんな蛍を、杏寿郎は見たいと言った。
柱である杏寿郎の目を止められたのならば、平隊士達の目も止められるかもしれない。
「何を可笑しなことを言って──」
「くすくす」
貫く無一郎の姿勢を止めたのは、意志を見せた蛍の言葉でも、冷静な義勇の判断でもなかった。
その場にそぐわない、静かで楽しげな笑い声。
「蛍は本当に面白い子だね」
あまねに付き添われ部屋の奥から姿を現したのは、屋敷の主である産屋敷耀哉。
途端に膝を折り頭を下げる義勇と無一郎に、ぽかんと見ていた蛍も慌てて続いた。
「いいよ、皆顔を上げて。確かに蛍の言う通りだ」
「お館様? 何を…」
「私は敗北しろとは言っていない。その役目を全うしろと言ったんだ。本物の鬼である蛍や禰豆子に個の意志があるように、鬼役にもそれぞれに意志があるはず。失念していたよ」
縁側に立つ耀哉の視力を失くした瞳が、正確に蛍の姿を捉える。
「そのことに気付かせてくれた蛍には、お礼をしないとね」