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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第12章 鬼と豆まき《壱》✔



「〝貪欲の赤鬼〟は渇望、欲望、全ての悪心の象徴です。払うことにより、自分の中に巣食っている悪しき心を取り除けると言われています」

「〝瞋恚の青鬼〟は憎しみや怒りの象徴です。払うことにより、自身を浄化し、福に恵まれると言われています」

「〝掉挙悪作の白鬼〟は甘えや執着の象徴です。払うことにより、公平な判断、心の平穏を取り戻せると言われています」


 子供の頃に経験した節分では、そんな難しい意味など知らなかった。
 どうにか内容についていきながら、ふと自身の手元に視線を落とす。
 蛍に渡された鬼面は、影のように真っ黒な鬼。


「〝疑の黒鬼〟は疑心や愚弄、愚痴の象徴です。払うことにより、不平不満、卑しい気持ちを洗い落とし、平穏な生活が送れると言われています」

(平穏な生活…)


 それは正に鬼殺隊が求めるもの。

 憎々しげに見上げてくる鬼の目を見返す。
 蛍のその瞳もまた、悪しき鬼と同じなのだ。


「意味は違えど、蛍 達がすべきことは皆同じ。私の可愛い子供達の為に、その役を全うしておくれ」

(それって、)


 人の為、世の為に、負かされて来いということだろうか。


「「御意」」


 頭を下げる義勇と無一郎とは違い、蛍は顔を伏せることができなかった。










 唯一、野晒しとなってしまう頭部が陽に焼けないよう、黒い頭巾を身に付ける。
 その上から分厚い鬼面を被れば死角はない。

 どこからどう見ても、


「まんま鬼だね」

「…言わないでそれ」


 文字通り鬼と化した自身の姿に突っ込む前に、無一郎に突っ込まれてしまった。


「義勇さんと時透くんはいいよね…顔を出せて」

「仕方ないだろう。お前は鬼面を外せば、顔を陽に焼かれ死ぬぞ」


 左頭部と後頭部にそれぞれ鬼面を取り付け、素顔は晒したままの柱二人を恨めしく思う。
 しかし背に腹は替えられない。

 溜息をつきつつ現状を呑み込む蛍に対し、禰豆子は着物に比べると率先して白い鬼面を取り付けていた。
 どうやら鬼面は気に入ったらしい。


「そろそろ夜が明ける。日の出と共に開始だ」


 産屋敷邸の広間を後にし、下りた広い中庭で朝日を待つ。

 空はもう白けた。
 日の出は間近。

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