第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「うん。蛍も禰豆子もその姿なら大丈夫そうだね。鬼として立派に務めを果たせそうだ」
仄暗い明け方間近。
産屋敷邸の広間で耀哉と向き合うは、本日〝鬼〟となる男女四人。
「今年は鬼が四人ということで、ほんの少し工夫をしてみたよ。さぁ手に取って」
「ムゥ?」
「これは…?」
「鬼が鬼である証。君達の生命線だ」
頸を傾げる禰豆子と蛍の前にも、義勇と無一郎と同じものが差し出される。
耀哉の五つ子のうち、四人の娘達がそれぞれに運んだのは漆塗りの木箱。
赤、青、白、黒。
それぞれに色が違う。
蓋を開ければ、燃えるような目をつり上げ、巨大な牙を剥き、眉間を盛り上げ、人成らざる角を持つ。
憎悪たる顔で睨み付けてくる鬼の面と対面した。
(成程…これが鬼の命の代わり)
隊士や平民の木札とは違う、悪を主張するような鬼面を内心納得しながら蛍は手に取った。
持ち上げれば、重厚感ある造りと同様にずしりと手に余る。
「毎年赤鬼と青鬼だけだったけれど、今年は白鬼と黒鬼も一緒だ。それぞれの悪鬼の役を果たすように」
「赤は"貪欲(どんよく)"。青は"瞋恚(しんに)"。白は"掉挙悪作(じょうこおさ)"。黒は"疑(ぎ)"」
「色鬼にはそれぞれに意味がございます」
「その鬼を豆で払うことで、その鬼の抱える悪をも払えると言われております」
耀哉に続き幼さの残る声で、しかし淡々と説明を続ける娘達。
「はい。質問いいですか?」
「いいよ、蛍」
「その鬼の持つ悪の意味ってなんですか?」
「おや。その話は義勇や無一郎から聞いてなかったかな?」
「聞いてません」
きっぱりと言い切る蛍の目は、義勇ではなく無一郎へと向いている。
しかし当の本人の目は一切蛍には向けられず、自分のことを言われていることすら気付いていない様子。
手渡された青鬼の面をしげしげと眺めていた。
「では説明をしてあげなさい」
「「「「はい」」」」
父の命に、娘達が口を開く。