第12章 鬼と豆まき《壱》✔
先を歩く杏寿郎と炭治郎の深夜だというのに元気なやりとりを目にしながら、ぼんやりと夜道を歩く。
鬼の私の方が元気がないのも可笑しな話だけど…頭の隅にずっとこびり付いて離れないものがあったから。
帰り際に向けられた、時透くんの言葉だ。
所詮鬼は鬼。
そんなこと、色んな人に色んな形で言われ続けてきた。
慣れているはずのものなのに、何故か時透くんの言葉はこびり付いたまま。
なんでだろう…基本、私に興味を持たない子だからかな。
向けられた時の言葉に、重みが増すのは。
「!」
あ。
会話が途切れた隙間で、不意に振り返った炭治郎と目が合う。と、慌てたように目を逸らされた。
え。なんで。
常に逆立った前髪に、広いおでこが出ているからその表情はよくわかる。
顔赤いけど。なんで。
「炭治郎?」
「えっあっ何っ?」
挙動不審にも程がある。と言えるくらいに挙動不審に返された。
わたわたとこちらを見る炭治郎の顔はやっぱり赤い。
「どうしたの? 顔、赤いけど」
「え! い、いや…なんでも…」
私の血はもう前にあげたから、そのことで切羽詰まってる訳でもないみたいだし。
なんだろう。
杏寿郎と炭治郎の間から覗くようにしてその顔を凝視すれば、更に…何その顔。
「なんでもない!」
炭治郎は義勇さんみたいな眉目秀麗じゃないけど、幼さの残る大きな瞳に誠実そうな目鼻立ちを持つ。
決して醜男なんかじゃない。
のに、今は違う。
白目になりそうなくらい両目をぐりんと空へと限界まで向けて、膨らませた頬に食い縛るように真一文字に強く唇を結ん…何その凄い顔。
ぷるぷる震えている様からして、明らかに嘘ついてるのバレバレなんだけど。
耐えてるの? 嘘をつくことに耐えてるのそれ?
…本当、根が素直だね炭治郎…。
「ははは! 面白いな少年! そんなに真実を告げるのが億劫か!?」
あ、杏寿郎にもバレてる。
柱である杏寿郎には嘘をつけないとでも思ったのか、その笑い声にようやく炭治郎の変顔が止まった。
「そういう訳じゃ…でも、あの…触れていいものかって…」
「何が?」
まだほんのりと赤い顔のまま、くんと炭治郎の鼻が空気を一嗅ぎする。
「お二人が、凄く…優しい匂いをしてたから」
優しい匂い…?