第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「なら師範とも一戦混じえられるのかな」
「うむ! その時はぜひ蛍の実力を見せてくれ!」
不思議だな。
あんなに不死川や胡蝶と戦うとなると嫌なのに、杏寿郎相手だとそう感じない。
日頃よく組手をして慣れているのもあるかもしれないけど…私の為に向き合ってくれている時間だって、知っているからかもしれない。
「師範やお館様に認めて貰えた自分を見せられるように、頑張ってみます」
そう告げれば、杏寿郎の笑みが深みを増す。
「うむ」
いつもの張り上げるような大声ではなく、優しい声で迎え入れられた。
なんだろうな。
杏寿郎のこういう声を聞くと、どきどきするのに不思議と落ち着く。
好きな声、だな。
「…ねぇもういいかな。鬼役の説明も終わったんだし」
あ。
溜息混じりに口を挟む時透くんにはっとする。
「あの、説明、ありがとうございました。色々わかって良かったです」
年下であろう時透くんだけど、柱という鬼殺隊では上位の身分だ。
炭治郎がいる手前丁寧に頭を下げてお礼を言えば、無感情な目は私を通ってちらりと隣を見た。
「煉獄さんの頼みだから聞いただけだよ。君の為じゃないから」
「そうか! 感謝する!!」
あれ…あの目、前にも見たことがある。
確か柱会で、不死川の血で暴走しかけた私を斬ろうとした時透くんを杏寿郎が止めた後。
杏寿郎の手を煩わせてしまった詫びにと、私と杏寿郎の腕相撲の審判を買って出てくれた時だ。
誰に対しても無頓着に見えるけど、筋を通すところは通すし、杏寿郎にはなんだか心を開いているような気もする。
「もう時間も遅いし、我々はこれにて退去しよう! 世話になったな、時透」
「いいえ。でも次に来る時は鎹鴉を飛ばしてくれると助かります」
「うむ! 善処しよう!」
杏寿郎を筆頭に、時透くんに見送られて茶の間を後にする。
廊下を進む杏寿郎に、眠たそうな禰豆子の手を引く炭治郎。
その最後尾に付こうとすれば、くんっと着物の裾を引かれた。
え?
振り返れば、私の裾を掴んでいたのは時透くん。
思いもかけない彼の行動に目が丸くなる。