第12章 鬼と豆まき《壱》✔
でもその勝利条件、果てしなく勝率は低い気がする。
「師範。平民役となる鬼殺隊の隊士ってどれくらいいるんですか?」
「うむ! 任務に赴いている者もいるので全員参加とはいかないが、ざっと百は越えるな!」
「百…!?」
ええええ無理でしょ! そんなの!
「隊士役の柱から木札奪うだけでも大変そうなのに、そんな大人数の木札なんて一日じゃ…絶対勝ち目ないでしょ!」
「? 何言ってんの」
何って正論だけど。
「鬼が鬼殺隊で勝てる訳ないでしょ」
そしたらこれまた正論で返された。
「これは祭事だけど、鬼殺隊にとって鬼はなんたるかを再確認させる為のものだよ。そこで鬼を勝利させる訳ないでしょ?」
それは…確かに、そうだ。
鬼殺隊としての士気を高めるであろうものなのに、そこで鬼が勝ってしまったら意味がない。
「これは鬼役が負ける為に作られた約束事。俺達に勝利はないんだよ」
じゃあ…負ける為に戦えってこと?
「節分もそうでしょ。鬼は最終的に外へ追いやられて逃げ出す。暖かく家の中に迎え入れられる鬼なんている? 本物の鬼ならそれくらい言われなくても理解してくれないかな」
時透くんの物言いは相変わらず冷たかったけど、どれもが正論だった。
ただ、今まで節分を経験してきた自分がその思いに至らなかったのは…きっと、人間の時に経験していたからだ。
鬼の気持ちで参加なんてしない。
鬼は外へ追いやられて当然のもの。
鬼は悪。退治すべきもの。
そう、陽は昇ると沈むことと同じくらいに、当然のものとして受け入れていたから。
「しかしお館様は、柱と鬼とが共に協力する姿を見せる為のものでもあると言った」
つい俯いて膝の上の手元を握っていれば、隣で暖かい声がする。
鬼である私も、家の中へと招き入れてくれた人の声。
「ただ負けるだけが鬼役の成すべきことではない。蛍も楽しんで参加するといい」
「…師範」
楽しめるかはわからないけど、その言葉とその笑顔だけで心はほんのり軽くなる。
…そうだよね。
暴力が発生するにしても、これはお祭りなんだから。
本気で命を奪い奪われる訳じゃない。
杏寿郎との組手のようなものだと思えばいい。