第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「その木札なら俺も渡されました! これ…っ」
はっとした表情で炭治郎が懐から取り出したのは【民】と書かれた、桑と稲穂が描かれたこれまた花札のような木札。
「それは平民の民札」
「鬼はその木札を奪ったら勝ち、ということね…ふむふむ」
「でも鬼には約束事がある」
「約束事?」
って何。
頸を傾げれば、時透くんは相も変わらず無表情のまま、二本の指を立てた。
「一つ。鬼は平民を攻撃してはならない。二つ。鬼も命を奪われたらそこで負け」
「攻撃って…待って、やっぱり暴力発生するの?」
「隊士は鬼を狩る者だよ。鬼を見つければ全力で排除してくるに決まってるでしょ」
えええやっぱり!
じゃあ不死川とか胡蝶とかも参戦してくるってことだよね?
うわあ…嫌だ。
「その代わり鬼も隊士には反撃できる。ただし刀を使うのはご法度。一応祭事だし、柱は皆竹刀を代わりにする」
えええ…竹刀でも十分強かったよ杏寿郎…勝てなかったよ私。
真剣じゃなくても気が重い。
「あの。鬼の命ってなんですか? 俺達の木札みたいなものなんですか?」
「…君誰?」
「えっ」
挙手して問う炭治郎を、じっと見た時透くんの第一声は冷たい。
「君、平民でしょ。鬼役じゃないなら黙ってて」
うわあ…第二声も冷たかった。
私に冷たいのは鬼だからだけじゃなかったのかも…時透くんの性格がそうなんだろう。
「あ、あの。私も知りたいです、鬼役の命を成すもの」
続けて挙手すれば、無表情がこちらに向く。
いつ見ても、何を考えているかよくわからない顔だ。
「受け取ってないの?」
「え…受け取って、ません…?」
だよ、ね。
木札は貰ってないし、他にも特に何も…。
「鬼役の命は札とは異なる。なに、本番までには届くだろう」
札とは異なる? なんなんだろう。
そう目で問いかけたけど、さっきから一度も口を挟まなかった杏寿郎は元々説明はする気がないんだろう。それ以上答えは貰えなかった。
「大体はそんなところかな。鬼の勝利条件は、日没までに平民・隊士全ての命を奪い尽くすこと。自身の命を狩られるか、全ての人の命を奪う前に日が沈めば負け」
成程なぁ…だから義勇さんは一日で終わるって言ったんだ。