第12章 鬼と豆まき《壱》✔
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「……師範」
「なんだ?」
「これ、訊く相手間違えてるんじゃ…」
「間違えてなどいないぞ! 彼はお館様の前で指名された鬼役だ!」
いやそうだけど。
杏寿郎の言う通りだけど。
「…なんで俺の所なの」
今回ばかりは本人の言う通りだと思う。
なんで義勇さんじゃなく、時透無一郎くんなのか。
杏寿郎が私達を連れて来たのは霞柱の屋敷だった。
初めて来たから見たことないのは当然だったけど。
最初は杏寿郎が何度訪問の呼びかけをしても、うんともすんとも言わず開かなかった玄関。
それが余りにも杏寿郎が大声で呼び続けるものだから(終いには炭治郎まで加勢して)最終的には時透くんが根負けして迎え入れた。
そして案内された茶の間で、茶も出されずに向き合って座っている。
何これ。
「時透は鬼役は初めてだろう? 自身の中で呑み込む為にも、他者に説明することは損ではないぞ!」
「…はぁ」
杏寿郎の言うことは尤もだ。
それを時透くんも理解しているのか、重い溜息をつくと諦めの表情を見せた。
凄く、重い溜息をついて。
「じゃあ一度しか言わないから、よく聞いてて」
あ、ハイ。
隣に座っている禰豆子は集中力が途切れたのか、自分の髪先で遊んでいる。
私がしっかり聞かないとと、前のめりに姿勢を伸ばした。
やっと聞けるんだ。
鬼役って一体何をするんだろう。
「鬼は平民と隊士に危害を成す者。つまり、平民と隊士の命を奪う者」
「命を? でもこれは行事の一貫だって…」
「黙って聞いて」
「あ、ハイ」
「平民と隊士の命は…煉獄さん。持ってますか?」
「うむ! 本日配布された!」
そう言って杏寿郎が懐から取り出したのは、一枚の木札だった。
鬼役の選別をした時に使ったものと似てる。
長方形の紅い木札で、花札のような鮮やかな藤花の絵柄が彫ってある。
そこには達筆で【剣】の文字。
多分、隊士役の意味を成すんだろう。
「あの剣札が、隊士の命。鬼はあれを奪わなきゃいけない」
成程。
天元と実践稽古した時に使った風鈴のようなものかな…。
「…その木札、爆発しないよね…?」
「は? 何言ってるのする訳ないでしょ」
ですよね良かった!
ちょっと確かめただけです。