第12章 鬼と豆まき《壱》✔
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「この着物、結局禰豆子気に入らなかったね」
「俺はそれで良かったと思う」
まぁ炭治郎からすれば、そうだよね。
それでも禰豆子が脱ぎ捨てた着物は一応貰ってきた。
「せめて前掛けにして着れば当日はなんとかなるかもしれないし」
「うむ! 猫子少女の為にも、」
「禰豆子少女ね」
「うむ! やはり着衣させるべきだと俺は思う!」
本当にわかってるのかな、名前。
隠の隊舎を後にして、先頭を歩く杏寿郎の目は真っ直ぐ前を向いたまま。
後方を歩く私達からは見えないけど、いつものハツラツとした顔をしているんだろう。
「禰豆子も、一日だけだから。できる?」
「ムゥ…」
あ、眉間に皺。
大丈夫かなぁ。
「折角だから私、禰豆子とお揃いしたいなぁ。ね、一日だけ」
「厶…」
「良い生地使ってるし、節分が終わったら頭のそのリボンの材料にするとか」
前田さんはきっと泣くだろうけど捨てられるよりはマシだ。
あれこれ言い聞かせていたら、繋いだ禰豆子の手が柔く握り返してきた。
お、これは良い反応かな?
すると不意に反対側で手を繋いだ炭治郎に向く。
目が合っただけで禰豆子の意図を汲んだんだろう、炭治郎は優しい兄の顔をした。
「いいんじゃないか? リボンなら幾つあってもいいし。気分で付け替えれば、今のも使えるだろうし」
あ。
もしかしてこのリボン何か思い入れでもあるのかな。
「大事なリボンなの?」
「鬼になる前から、禰豆子が愛用していたリボンなんだ。母さんから貰ったもので」
成程…それは大切だよね。
「それじゃあやっぱり」
「諸君!!」
リボン案は保留かな、と続けようとした言葉は先頭を行く燃える炎に邪魔された。
「着いたぞ!!」
腕組みをして胸を張る杏寿郎の背中から、三人で目の前の建物を覗き見る。
「あの…煉獄さん?」
「此処って…?」
「ムゥ…?」
此処、蝶屋敷でも炎柱邸でもないけど。
三人で頸を傾げて見た先は見知らぬ屋敷。
私が今まで見てきたどの柱の屋敷とも違う。
「折角鬼役の二人が揃っているんだ! この機を逃す理由はないと思ってな!」
「この機って?」
「鬼役の話を聞く機会だ!」
え。それってつまり。
此処、鬼役の柱の屋敷?