第12章 鬼と豆まき《壱》✔
前田さんの歯止め役のような後藤さんだから、姿が見えないことに疑問を感じてたけど。
多分、禰豆子の着付けの手伝いをしてくれていたんだろう。
そしてやっぱり後藤さんは救世主だった。
「ぐ…お前は…何故あの良さが、わからないん…だ…」
後藤さんに襟首掴まれ引き上げられた前田さんが、息絶え絶えに宣う。
吐血してるのに眼鏡の奥の瞳はキラキラしてる。
なんだか凄く清い顔しているけど、言ってることはやっぱり変態だ。
「あのなァ」
「わかりません」
あ。
「わかろうとも思わないし、今後一切禰豆子には触れないで頂きたい」
ざわざわとその場の空気が重く変わる。
発信源は、禰豆子に自分の市松模様の羽織を被せて庇うように立つ炭治郎。
ビキビキと顔に浮かぶ血管。
限界まで見開いた瞳。
静かにその場に立っているだけなのに圧がある。
そこに、いつもの優しげな色は一切見えない。
普段温厚な人程怒ると怖いって言うけど…これは……うん。怖い。
今すぐ抜刀して鬼退治でも始めそうな気迫だ。
「…お前…いつか命狩られるからな…」
「く…っそれでも私は縫製係だ…! その命を全うする!!」
「阿呆かァ!!!」
「ギャン!!!」
あ。また後藤さんの拳が落ちた。
もう瀕死みたいだし、それ以上殴ったら前田さん戻って来れなくなるのでは?
「尤もなこと言ってるようだがテメェの言葉はただの卑語だからな!!」
タンコブが団子状に出来上がった頭から、ぷすぷすと煙を出しながら撃沈する前田さん。
その耳に届いているのかいないのか、後藤さんの言葉は誰が聞いても納得する正しさだった。
うん、全くその通り。