第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「そうだ。これを」
中々杏寿郎を直視できずにいたら、不意に懐から何かを取り出し差し出してきた。
ようやく向けた視界の中に映る、小さな紅。
それは小さな小さなちりめんの巾着袋だった。
私の掌の中心にぽつんと置かれる程小さな紅い袋は、見たことがある。
これ、香り袋だ。
「香り袋?」
でも鼻を近付けても、不思議と匂いがしない。
香り袋じゃないのかな?
「そうだな、似たようなものかもしれない。簡単に言えば御守のようなものだ」
「お守り…」
「その袴の袖の中には袋が付いている。身に着けておくように」
「わかりました」
しきたりを重んじる杏寿郎の性格からしたら、お守りも不思議じゃない。
次の鬼の討伐任務には連れていってくれるって約束したし。
この袴は、その時にも着ていくだろうから。
いそいそと袖の内側についた小さな縫い目に巾着袋を入れていると、不意にドタバタと廊下から賑やかな音がした。
「ムゥー!」
「駄目だ禰豆子! その格好で動き回るな!」
あ。この声は。
騒動に私達の目が廊下へと向いた途端、襖を開けて勢い良く飛び込んでくるこの中で一番背丈の小さな女の子。
「ムゥう〜!!」
いつもの麻の葉文様の着物じゃない、見慣れない姿の禰豆子だった。
禰豆子も炭治郎と一緒に此処隠の隊舎へ赴いていたんだっけ。
その着物はきっと私と同じで日光対策の──…ってちょっと待って。
「禰豆子、その格好…」
私を見つけて傍に駆け寄ってくるけど、その眉間には皺が寄っている。
着なれない着物が居心地悪いのか、私と同じで頸まで肌をぴったりと覆う下服を嫌そうに引っ張っている。
だけど問題はそこじゃない。
露出はない。
ないんだけど、そのぴったりと張り付いた下服は少女特有の柔らかな体の曲線を惹き立てている。
なんで体の曲線がわかるかって?
だってその上から着ている着物が、凡そ着物の役割を果たしていなかったからだ。