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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第12章 鬼と豆まき《壱》✔



「私が貰うには贅沢過ぎる代物ですね…ありがとうございます」

「そんなことはない。鬼殺隊で君が成し遂げたことを思い起こせば、十分な代物だ」


 そして立ち止まりそうになると、強いくらいに引っ張っていってくれる。
 私が、私自身を信じられるように。
 炎のように温かい言葉で包んでくれるんだ。


「それだけではありませんよ。その袴には細工がございまして。首元の襟は伸縮性自在の生地で、伸ばすことができます」

「これ?」

「そうです」


 説明するのが楽しいんだろう、変な癖はあれど前田さんも立派な縫製係。
 生き生きとした表情で、私の下服の首元を指し示した。


「それを伸ばせば顔の下半面を覆うことができます。より紫外線から身を守る為です」

「おお…っ」


 言われた通りに引っ張れば、確かに伸びる。
 鼻から口元も覆える口布状態に、なんだか興奮した。
 これ忍者の覆面みたい…!


「息苦しくない!」

「勿論ですとも。使い易さに特化した代物ですから」


 ぴたりと顔に密着してるのに、違和感はほとんどない。
 思わずその場にあった姿見を覗き込んで、ぴょこんと跳ねる。

 本当に忍者みたいだ…なんだか格好良い。
 額当てがあれば完璧なのに!


「ふ、」

「?」


 くるりくるりと回って前後の姿を確かめていれば、微かな笑い声。
 足を止めて見れば、口元に拳を当ててくつくつと笑う杏寿郎と目が合った。


「そういう姿は、本当に君を鬼だと言うことを忘れさせるな。愛いものだ」

「…っ」


 か、と顔が熱くなる。
 覆面一つではしゃいでしまった恥ずかしさと、杏寿郎の言動に。

 こ、子供っぽいことしちゃったかも…。


「なんだ、もう楽しまないのか?」

「…十分デス」

「残念だ。もっと見ていたかったのに」

「っ」


 だからそういうこと言うから。

 覆面をしてて良かった。
 じゃなきゃ顔が赤いこと、絶対前田さんにも見破られていた気がする。

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