第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「ああ、ぴったりですね…!」
出迎えてくれたのは、両手を胸の前で合わせて満面の笑みの前田さん。
と、
「うむ。やはり、よく似合う」
優しさを含んだ笑みを浮かべた杏寿郎。
な、なんか恥ずかしいな…初めて姉さんの前で一張羅の袴で着飾った時みたいだ。
自分に見合わない上質な着物に、嬉しさと気恥ずかしさが入り混じっていた時みたいに。
「この色合いと模様は、前田さんが?」
「いいえ。全て炎柱様が選んで下さいました。資料は私が用意しましたが、長いこと熱心に厳選しておられましたよ」
そうなんだ。
まじまじと杏寿郎を見れば、ゴホン!と大きく咳払いをされた。
あ、照れてるのかな。
「あの、師範。この模様って、もしかして炎の形とか?」
袴に刺繍された不思議な模様を指差して問う。
やっぱり炎柱の継子だし、炎の模様なのかな?
「それは、確か…グロ…」
「ぐろ?」
「なんと言ったか…グオ…?」
「グロリオサ、です。炎柱様」
「そうだった、グロリオサ!」
ぐろりおさ?
何それ、一度も聞いたことない名前。
「海外の花の名前です。日本では別名、狐百合」
きつねゆり…やっぱり聞いたことない名前だった。
海外の花なら、見たこともないのかも。
「どんな花なんですか?」
「鮮やかな赤や黄に色付き、燃える炎の如く花弁を天へと伸ばす。炎の華だ」
「炎の華…」
「俺の継子とあらば、炎柱の継承者。故に炎を掲げるのは当然のこと」
「わ、私が継承者なんて」
鬼なのに、なれる訳がない。
「うむ。そう言うと思っていた。深くは考えなくて良い。これはただ…その言葉に惹かれて選んだだけだ」
言葉?
「グロリオサの花言葉は"栄光"と"勇敢"。海外の言葉を借りると、"栄光の魂"と呼ばれることもあるんです」
「人でも鬼でもなく、俺が惹かれたのは君自身の魂だ。蛍にしか持ち得ないその輝きを燃やし続けていて欲しい。そう願いを込めた」
天元が言えば気障に感じられそうな台詞も、杏寿郎だとそうは感じない。
その思いに微塵も嘘や建前を感じないからかな…。
まさかそこまで思いを込めてくれていたものだったなんて思ってもいなかった。
言い様のない感情で、胸がいっぱいになる。