第12章 鬼と豆まき《壱》✔
案内された隣の部屋で、身に着けていた自身の袴の帯を解く。
杏寿郎はしっかり前田さんと打ち合わせてくれていたみたいだ。
広げて見た頂いた袴は、どこも露出を強調する形はしていなかった。
まぁそうだよね…日光から守る為の袴なのに。
露出なんてしていたら即死だもんね。
頸までしっかり肌を覆う下服に上から着物、袴と試着する。
手元を隠すのは、初詣に蜜璃ちゃんから借りた黒い長手袋にも似ているもの。
でも指の先端は小さな切れ目が入っていて、鋭い鬼の爪は隠すことなく表に出せる形になっていた。
これなら手袋を破く心配がない。
袴の下も短い足袋じゃなく、太腿までぴったりと肌に密着する長い靴下のようなものを履く。
蜜璃ちゃんの長い靴下に似てるかな?
色は手袋と同じ黒。
これなら万が一袴が捲れても肌が見える心配はないし、身に着けても凄く薄くて通気性が良いから蒸れる気配もない。
凄いなぁ、どんな素材を使ったんだろう?
「こんな感じ、かな…」
きゅっと袴の帯を締めて、姿見の前で何度も回って前後を確かめる。
頸から下の肌を一切出さない袴は普段見慣れたものとは違うけど、でも不思議と変には感じなかった。
全体的に落ち着いた雰囲気だからかな…この色合いと模様、杏寿郎が提案したのか疑問が浮かぶ。
だって普段あんなに炎を燃した羽織や脚絆を身に着けて、派手な格好をしてるのに。
黒い下服の上に着る着物は、黒を貴重としたモダン柄。
落ち着いてはいるけど花模様も入った女性らしさも残す模様だ。
その下の袴は臙脂色。
ここには左側面から後ろにかけて、なんて言うんだろう…不思議な模様が刺繍されていた。
揺らぎ立ち上る曲線が炎のようにも見えるけど、水の流れみたいにも見える。
杏寿郎の羽織に刻まれている炎とは、また少し違った模様だ。
全体的に落ち着いた、だけど他では見ないような形。
一点物だってことがわかる。
私の為に一から作ってくれたんだろうな…。
大事に、着ないと。
『どうだ? 着心地は』
『寸法など可笑しなところがあったら言って下さいね!』
襖の向こうから届く杏寿郎と前田さんの声に、しっかり帯紐が結ばれていることを再度確認する。
「うん、大丈夫。出ます」
脱いだ袴を畳んで、襖をゆっくりと開けた。