第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「ささ、お納め下さい」
節分本番は三日後と集会でお館様に告げられた、翌日。
私は隠の隊舎にて前田さんからあの袴を受け取っていた。
【祝】と金色の文字で綴られた熨斗(のし)が巻かれた、綺麗な平たい木箱。
こんな立派なお祝い物なんて受け取ったことがないから、恐る恐る受け取りつつ思わず杏寿郎を見る。
目が合うと、昨日の鍛錬の鬼を微塵も感じさせない朗らかな顔で笑ってくれた。
というか、結局昨日は私の鍛錬というか杏寿郎の鍛錬だったように感じる。
指導は最初だけで、途中から素振りとか一心不乱にしてたし…激しかったなあれ。
「改めて、おめでとう! 細やかながら師からの祝いだ」
「…ありがとう、ございます」
なんだか胸がじんとする。
まだ中身は確認していないけど、期待でそわそわした。
「開けてもいいですか?」
「無論!」
頭を下げた後、畳の上に置いた木箱から破かないように熨斗を外して蓋を開ける。
薄い葉紙(ようし)に包まれ、綺麗に収められた布地。
そっと触れてみれば滑らかな肌触り。
よくよく見れば、細部まできちんと縫われたしっかりした作り。
素人の私が見ても上等なものであることは、一目瞭然だった。
「以前よりも紫外線に強く、且つ重さを感じさせない素材選びを行っています。ぜひ試着してみて下さいっ」
「うむ! それはいいな!」
眼鏡の奥の小さな瞳をきらきらと輝かせて催促する前田さんに、杏寿郎も大きく頷いて賛成する。
「俺もぜひ見てみたい!」
そんなことを言われれば断る理由はない。
「…じゃあ、」
取り出した袴を抱いて立ち上がる。
どんな形をしているのかな。
袖を通すのが楽しみだ。