第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「否、悪い女性と言うべきか。自分の立場を知って悪用してくるとは」
何、悪用って。
自分の立場なんてよく知らないよ、手首掴まれただけでビビってるのに。
でも杏寿郎の口から告げられた女性という言葉には、どきりとした。
今までそんな枠組みで呼ばれたことなかったから。
って違う。
「ごめんなさいもうしません許して下さいちょっとした出来心でしたお館様万歳!!」
急ぎ早口で告げれば、じぃっとこっちを貫くような視線が…ひぃ。
見慣れたと思ってたのにちょっと怖い。
穴が空きそうな程強く見てくるその瞳の中の奥が、よくわからなくて。
「き、杏寿郎…?」
金輪のかかる、燃える炎のような色。
呼んだ声は情けなくも躓いてしまった。
今私は、情けない顔をしているかもしれない。
「な」
「よし!」
「!?」
「素行の悪い継子には鍛え直しが必要だな!」
かと思えば、いきなり踵を返し私の手首を掴んだままずんずんと進む。
待って鍛え直しって。
まさか今から鍛錬するの?
今日は事前集会があるから鍛錬は休みだって言ってたのに…っ
「待って杏寿郎! まさか今から鍛錬っ?」
「そうだ!」
「ええぇえぇ!」
問えば即答で返される。
思わず悲鳴が上がってしまったけど、其処には師として手厳しいいつもの杏寿郎がいた。
さっきの燃えるような灯火を見た瞳は、見間違いだったかと思う程に消えていて。
どこかほっとしている、自分がいた。