第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「蛍に指導したことは多数あれど、共闘したことはない。一度君と肩を並べて挑んでみたかった」
そういえば、確かに。
私も杏寿郎なら安心して背中を任せられる気がする。
いつも組手では負け知らずな大きな壁だけど、だからこそ味方となればこれ程心強い相手はいない。
「…ん?」
ってちょっと待って。
今、共闘って言った?
「共闘って何? 戦うってことだよね? やっぱり暴力発生するの?」
「…………む!」
「いや、む! じゃなくて。ねぇ何? 鬼役って何するの?」
「それは答えられない! お館様直々のご命令だ!」
腕組みしたまま一瞬固まったかと思えば、明後日の方角を見て叫んでる。
いや私そっちいないから。
こっちを見てこっちを。
「今此処にお館様はいないし、私も聞かなかったことにするから。ね? ちょっとだけ」
「駄目だ! 炎柱としての覚悟を疑われてしまう!」
「疑う人なんて誰もいないよ。ほら、此処には私と杏寿郎だけだから。大丈夫、大丈夫」
「む…う」
「誰も見てないから」
「むむ…」
「ほらもう一声っ」
「むぅう」
「杏寿郎ならでき」
「彩千代蛍ッッ!!!!!」
「うわはっ!?」
俯き体を折り曲げ悩む杏寿郎に、ここぞとばかりに耳元に口を寄せて吹き込んでいけば途端に爆発した。
いきなり至近距離で鼓膜を破るような大声で呼ばれて、変な叫び声を上げる。
吃驚したな…!
「師範である俺を誑かそうとは、悪い継子となったな」
炎の呼吸を扱う時みたいに、杏寿郎の額に血管の筋が浮かび上がる。
シィ、と微かにその口から溢れる音は、やっぱり技の呼吸音だ。
え。ちょっと待って。
「や、やっぱり今のナシで。うんナシなしィっ!?」
慌てて顔の前で横に振る手を止めるように、がしりと手首を掴まれる。
うわ怖い。