第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「あ。でも」
勢いのまま流されそうになった空気を止めたのは、ふと思い出したように人差し指を自身の頬に当てた胡蝶だった。
「節分行事は原則、昼間行われますよね。彩千代さんと禰豆子さんは活動できないのでは?」
あ。
言われればそうだ…一番大事なことが抜けてた。
私と禰豆子は夜しか行動できない。
胡蝶の意見に皆も気付いたんだろう、さっきまでの勢いは何処へやら。
黙り込む柱達に…おお、これはもしや無理なのでは…?
私と禰豆子は鬼役やらなくても良いのでは…っ?
思わず期待の眼差しでお館様を見る。
「それは」
「問題無い!!」
あ。
お館様の声を遮って高々と叫んだ声の主は、私の真横から。
「む!? お言葉を遮って申し訳ありませんお館様…!」
「いや、構わないよ。そうだね、杏寿郎の方から説明してあげてくれるかな」
炎柱の杏寿郎。
「御意! 日光の問題なら、一度蛍も克服している! 以前、不死川の所へその姿で赴いたとか」
それって…あの、対日光用の袴のこと?
…もしかして。
思わずまじまじと杏寿郎を見れば、その視線で理解したんだろう。うむ、と大きく頷いて杏寿郎は笑った。
「前園氏に頼んでおいた袴が、つい先日出来上がったのだ!」
「…前田氏、ね」
できたんだ…杏寿郎が前田さんと打ち合わせしている様子は一切見かけなかったから、進捗なんて全然知らなかったけど。
まさか完成していたなんて。
どんな形をしてるんだろう…蜜璃ちゃんの隊服みたいに、胸元大っぴらに開いてないといいけど。
「無論、鬼の妹の分も頼んであるぞ少年! 日光を遮断する特別性の布で織り上げた着物だ!」
「えっそんな凄い着物があるんですか…!?」
前のめり気味に食い付く炭治郎は興奮と感動を覚えているみたいだけど、私は若干不安だった。
確かに太陽の下は歩けたけど、不死川の屋敷まで行くのも命懸けだったし…あの時は義勇さんが手を引いてくれたから達成できたようなものだ。
昼間の曇天の下を散歩するのとは訳が違う。