第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「義勇さんも節分に参加するんだね。少し意外だった」
「お館様のご命令だ。背く訳にはいかない」
確かに。
年末の柱会は杏寿郎達が個人的に開催していたものだったし。
「ね、ねぇ。義勇さん」
「?」
「この節分って、普通の節分と何か違ったりするの?」
皆から離れているのをいいことに、こっそりひそひそ声で問いかけてみる。
この疑問はずっと抱いていたもの。
昨夜杏寿郎に訊いてみようかとも思ったけど、なんだか嫌な予感が拭えなくて訊けなかった。
もしその嫌な予感が当たってしまえば、一日中落ちた気持ちで此処へ来なきゃならない。
それは流石にしんどいというかなんというか…お祭りだって杏寿郎は言っていたけど、訓練の一貫とも言ってたし。
なんだか引っ掛かる物言いが、少し不安。
「前にも参加したんだよね?」
「俺は隊士役しかしていないから、全貌はよく知らない」
隊士役?
待って役って何。
元から隊士だよね? 義勇さんは。
「そう身構えなくても一日で終わる。役によっては日々と変わらない一日を過ごせることもある」
だから役って何。
「じゃあ逆を言えば怒涛の一日を過ごす羽目になることも…」
「彩千代」
恐々呟けば、義勇さんの声が止めに入る。
「何もお前を取って食うような行事じゃない。以前のお前と、今は立場が違う」
天元との実践訓練で、命を賭けることになった時みたいに。
今では、そんなことないってこと?
「心配するな」
口数は少ないけど、その分変に誤魔化したりしない義勇さんの言葉は、なんだか自然と呑み込めた。
「そっか…義勇さんが、そう言うなら」
大丈夫、かな。
うんと頷けば、じぃっと黒い眼がこっちを見てくる。
あ、この感覚なんか久しぶりかも。
「義勇さん?」
「……」
だけど前みたいな居心地の悪さは感じない。
気にはなるけど。
でも、嫌な目線じゃないことは多分、わかるから。
口数が少ない分、義勇さんは目で語るというか。
「変わったな」
「え?」
目線の真意を考えていれば、そんなことを唐突に告げられた。
変わった?
「檻の中にいた頃より、豊かになった」
豊か…って、何が?