第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「蛍ちゃんこんばんはっ! この間のスイ」
「こんばんは蜜璃ちゃん!!」
翌日。
顔を合わせた途端に私の痴態を暴露しようとする蜜璃ちゃんの口を、即座に両手で塞ぐ。
出会い頭に爆弾投下は止めて下さいお願いします!
「なんだなんだ、夜更けにデケェ声出しやがって。とうとう中身まで煉獄色に染まっちまったか?」
「変な言い方やめて。天元の顔の煩さに比べたら静かな方だから」
「あん?」
「あ、こんばんは伊黒先生」
「お前のようなでかい教え子を持った覚えはない」
いいでしょもう教え子で。
先生は先生なんだから。
というか天元の絡みが面倒だから挨拶しただけなので、そんな怖い顔しないで下さい。
ほら、蜜璃ちゃんの口からもう手を離したんで。
「ぷはっ…どうしたの? 蛍ちゃん」
「ううん。ごめんね、急に。久しぶりの面子が揃ったなぁって」
「そうね! 柱全員が集うのは蛍ちゃんの所在決めの時以来かしら?」
適当でもない言い訳をテキトーにしたら、それでも蜜璃ちゃんは愛らしい笑顔を向けてくれた。
「ふふっ嬉しいわね♡」
心底笑顔で言い切れる蜜璃ちゃんは、やっぱりとっても優しい女の子だと思う。
申し訳ないけどその意見には賛同し兼ねるから。
だって無言だけど視線が痛いもん、遠くから睨んでくる風柱の視線が。
いつもかっ開いてる目は、杏寿郎と同じなのに圧が全然違う。
怖いんだってそれ。
月夜の晩。
見知った面々が、行灯の灯りが並ぶ広いお館様の屋敷の中庭に集まる。
余り見ない半柄羽織を探せば、その輪の外に見つけた。
杏寿郎も混じえて話に花を咲かせている天元達から離れた場所に、ぽつんと一人で立っている。
相変わらずブレのない立ち位置だな…。
「義勇さん」
皆の輪から外れて義勇さんの下に歩み寄る。
私の寝屋が炎柱邸に変わってからは、時々しか合わせなくなった顔がこちらに向く。
他の柱ともそうだからそれが普通なんだろうけど、以前は頻繁に合わせていた顔だから。
なんだか凄く久しぶりな気がした。
「こんばんは」
「ああ」
相変わらず口数は少なめ。
でもその隣にいても、空気は気まずくもないし嫌でもない。
これが義勇さんの持つ独特の空気だって、それなりに理解したから。