第12章 鬼と豆まき《壱》✔
「それならば十分、日々鍛錬に励んでいるだろう?」
「それだけじゃなくて。私も何か師範の力になりたいんです。昼間はずっと寝てる訳でもないし、時間は作れるよ」
並んで台所に向かいながら話しかければ、いつものように弱音は吐かない杏寿郎の姿につい熱く伝えてしまっていた。
鬼になってから睡眠は取らずとも基本平気となった。
それでも寝られる時は寝てるけど、昼間の時間帯を全て費やさなくても問題ない。
だから早く起きた時は部屋の奥にこもって屋敷にある書物を読んだり、できる内職をしたりしてる。
それを杏寿郎も知っていたからか、組んでいた腕を上げて顎に手をかけると、ふむと考えてくれた。
「そうだな…柱として担っている仕事は預けられないが、代筆などなら。蛍は物書きが出来たな」
「うん」
「ならば筆を使う仕事を幾つか任せてもいいか?」
「勿論!」
これで杏寿郎の仕事を少しは軽減できるかも。
嬉しくて大きな声で頷けば、杏寿郎の顔が綻んだ。
「俺はその心遣いだけで十分だが」
優しい顔には目を奪われたけど、でも、私は心遣いだけじゃ嫌だな。
なんでもこなしてしまう杏寿郎だけど、私の隣で寝落ちてしまうくらいに疲れているなら。
やっぱり力になりたい。
「そうだ、晩御飯は何食べたい?」
杏寿郎が心変わりしないように、見えてきた台所に話題を切り替える。
さつまいも、まだ残ってたよね。
「さつまいも使い切りたいし、何か希望があれば作るよ」
「さつまいも! そうだな、先日のあれは美味かった!」
先日のあれ?
「スイートポテト!!」
……わあ。
「初めてとは思えない程よくできていた、あのスイートポテトは!」
「……」
「よければまた作って欲しい、あのスイートポテトを!!」
「……」
「どうした蛍、スイ」
「とりあえず連呼やめて」
嫌がらせですか。
そうだよスイートポテトだよ。
すいーたぽっとじゃなかったよ。
なんだすいーたぽっとって。
杏寿郎の誕生祝いをした後日、作り方を頼みに行った時の蜜璃ちゃんの顔が今でも忘れられない。
名称間違えしていたことを、盛大な胸キュンと共に可愛いなんて言われたけど嬉しくもなんともなかった。
ここ最近で一番消し去りたい記憶だ。